エンジニア的発想で未来を切り開く「生物システム工学」
光を使って果物の糖度を測る
農業の分野では近年、農作物のブランド化に注目が集まっています。その土地の農作物がいかにおいしいか、安全性の高いものなのかを明らかにして、ご当地ブランドとして消費者にアピールしようというのです。
その農作物のブランド化に一役買っているのが「近赤外線」です。近赤外線は人間の目には見えない光ですが、これを当てることによって、物質を壊さずに成分などの状態を測定することができます。仮に人体に当たったとしても悪影響はありません。
幅広く活躍する近赤外線
日本で近赤外線が利用され始めたのは1980年代からです。ミカンやリンゴの品質評価を行う選果場で糖度を推定する機械として導入されました。それまでは全体の中から数個を抜き取って搾り、糖度を測っていましたが、今では全部の果実に近赤外線を当てて調べることができます。1秒に2~3個を測れるスピーディな装置も開発されています。
近赤外線による測定技術は、このほかにも身近なところで活躍しています。例えば農作物中の水分量や肉の鮮度、醤油の成分の分析などに使われています。近赤外線は、固体・液体といった物質の形態を問わずに測ることができるのです。
また医療分野でも、血糖値や赤ちゃんの脳内酸素量の測定、薬をつくるときの品質管理などに活用されています。さらに最近、文化財級の古い木材や建築物の劣化状況などを調べられることもわかってきました。
循環型社会に貢献
環境保全にも近赤外線は利用されています。例えば汚水を測定して、きちんと処理されているかをチェックし、改善に生かすような技術開発が進められています。
このような研究は、「生物システム工学」の分野で行われているのです。生物システム工学から生み出された技術は、農作物など生物を無駄なく活用し、環境に負荷をかけない循環型の社会を実現することを第一の目的として、今後もさらなる進歩が期待されています。生物システム工学とは、エンジニア的な発想で、未来を切り開く学問なのです。
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