コムギは文明の母
コムギ祖先種の誕生
おそらく世界中の多くの人々が、毎日何らかの形で口にしているのがコムギです。コムギの原生種はおよそ数百万年前に西南アジアで誕生したと推定され、現在でも現地ではその姿を見ることができます。その現地調査と分析から、さまざまなことがわかってきました。最初期の祖先「クサビコムギ」には、染色体が14本ありました。これが200万年ぐらい前に、別の種と交雑します。通常なら交雑しても染色体の数が増えることはありません。しかし、あるとき交雑した種の両方の染色体が入ったのです。これは「倍数性進化」と呼ばれる現象で、新しくできた野生種「パレスチナコムギ」の染色体は、以前の倍の28本になりました。
コムギの栽培化
人類はいつ頃からコムギを食べ始めたのでしょうか。人類がアフリカ大陸からユーラシア大陸に進出したのが、約8万年前と推測されています。彼らは当初、野生のコムギを集めて食べていたと思われます。そのうち集めてきた野生のコムギの種が居住地の近くに落ちました。するとそこにコムギが生えてきて、やがて種をまけばコムギが育つことがわかったのです。さらに比較的粒を収穫しやすいものを選んで種をまくようになりました。これは「栽培化」と呼ばれ、約1万年前のこととされています。このように長い時間をかけて、野生のコムギは人間が栽培するコムギへと徐々に変化していったのです。
コムギが変えた人間の生活
栽培コムギを手に入れた人間の生活は、以前とは一変しました。食べ物を狩猟ではなく農業で得るようになったのです。食料を安定生産できるようになり、人口が増えていきました。農業を行うためには、季節の変化を知ることが必要ですから暦が作られました。天文観測、数学から占星術などの文化が芽生えてきます。不思議なことに、コムギだけではなくイネやトウモロコシ、ジャガイモなど人間の主食となる栽培植物は、いずれもそれぞれのふるさとで1万年ぐらい前に誕生しています。そして、このような栽培植物の原産地付近で、世界の主な文明は育まれたのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 農学部 生命機能科学科 応⽤機能⽣物学コース 教授 森 直樹 先生
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