西アジアから始まった農耕は、人類社会をどう一変させたのか

農耕の始まり
人類は200万年以上もの間、動物を狩り、木の実などを集める狩猟採集生活を送っていました。しかし、わずか1万年前に農耕と牧畜を始めたことで、社会は劇的に変化しました。西アジア(中東)には麦が自然に生える「自生地」があり、そこから栽培が始まりました。西アジアで栽培化された麦が世界中に広がり、現代のパンやラーメンなどの小麦製品を生み出したのです。
日本でも縄文時代は1万年も狩猟採集社会が続きましたが、朝鮮半島から農耕民が来たことで一気に稲作社会へと変わりました。多くの地域が外部からの波及で農耕社会へと変化していったのです。
コーカサス地方に眠る農耕起源の謎
農耕の起源地研究は主にトルコ南部で行われてきましたが、植物遺伝学ではコーカサス地方も重要視されています。特にアルメニアでの考古学調査では9000年前の遺跡が発見され、「存在しない」と考えられていた時代の空白を埋める成果となりました。発掘調査では動植物の痕跡を見逃さないように土壌を丁寧にふるい分けます。アルメニアは旧ソビエト圏で西側研究者の調査が難しい空白地帯でしたが、現地研究者との共同作業で謎が解明されつつあります。近年の研究では、農耕は複数の場所で同時に始まり、1000年単位の時間をかけて広まっていったことがわかってきました。農耕への移行は偶発的で、麦の味の良さも普及の要因だったようです。
農耕がもたらした光と影
農耕の始まりは富の蓄積と階層化を生み出しました。農耕前の遺跡では格差がほとんど見られませんが、農耕後は急速にリーダーが現れて、王や国家が誕生します。また農耕は人々を一カ所に定住させて、病気の増加や領土争いも引き起こしました。誰のものでもなかった土地が区分され、「この土地は自分のもの」という概念が生まれたのです。
こうした古代の農耕文化研究は、現代社会の理解や気候変動対応にも役立ちます。古代の多様な麦の品種は現代の単一栽培よりも環境変化に強く、今後の農業にヒントを与えるでしょう。
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