工学的手法と医学とのコラボで、早期発見が難しいがんを正確に診断

工学的手法と医学とのコラボで、早期発見が難しいがんを正確に診断

永遠の命を持つ細胞と、人間の細胞との違いは?

大腸菌などのバクテリアは、環境さえ整えれば、細胞分裂を繰り返し永遠に生き続けます。一方、人間は、どうやっても永遠に生きることはできません。その違いは、なぜ生まれるのでしょうか。
大腸菌などの遺伝子は輪ゴムのような形をしているのに対し、人間をはじめ多くの動植物の細胞の遺伝子は、ヒモのような形状をしています。そして、ヒモの両端を保護している「テロメアDNA」が、細胞分裂のたびに短くなり、一定以上短くなると細胞分裂が止まるのです。

長寿命化酵素が、がん細胞を「不老不死」にする

さまざまな細胞の中でも、生殖細胞や幹細胞などは、ほかの細胞より長生きし、自身の複製をどんどん作ったり別の細胞に分化したりしなければなりません。そのため、細胞内の「テロメラーゼ」という酵素が働き、それらのテロメアDNAの寿命を伸ばします。
必要がなくなれば不活性となるテロメラーゼですが、がん細胞だけはテロメラーゼ活性のまま、分裂・増殖を続けます。つまり、細胞のテロメラーゼ活性状態を調べれば、がん細胞かそうでないかがわかるわけです。

テロメラーゼ活性検出装置で口腔がんを早期発見

そこで、正確にテロメラーゼ活性を検出し、がんの有無を判別するため、「ECTA法」という検査法が開発されました。電極にテロメラーゼの基質となる人工のDNAを固定した装置に、細胞を溶かした液と専用試薬を入れ、電位をかけて流れる電流を計ることで、テロメラーゼ活性の影響で長くなったテロメアDNAを探すという方法です。
これで「口腔がん」を対象に実験を行ったところ、30分ほどの検査時間で80%以上の患者のテロメラーゼ活性を検出することができました。口腔がんが実験対象となったのは、口腔内の粘膜が簡単に採取でき、検査がしやすい一方、早期発見が難しいがんの1つだからです。今後は膀胱がんや肺がんなどの検査にもECTA法を応用するため、研究が進められています。

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九州工業大学 工学部 応用化学科 教授 竹中 繁織 先生

九州工業大学 工学部 応用化学科 教授 竹中 繁織 先生

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応用化学、有機化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

哲学者梅原猛の著書「学問のすすめ」にニーチェの言葉「人生の三段階」が引用されています。人間は、「ラクダの時代、獅子の時代、幼児の時代」を経なければ完成しないという内容です。中学・高校時代というのは、灼熱の砂漠の中、苦しみながら水も飲まずに歩き続ける「ラクダの時代」ではないかと、私は考えています。
苦しみながら、多くの力や見識を身につけることで、思いのままに戦える「獅子」になれます。高校時代にしっかりとした基礎学力を身につけてこそ、大学では獅子のように好きな研究と格闘することができると思います。

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九州工業大学は前身である明治専門学校の開校(1909年)以来、「技術に堪能(かんのう)なる士君子」の養成を教育理念に掲げ、品格と創造性を有した高度技術者・先導的研究者を育成しています。工学部・大学院工学府では学生フォーミュラー大会出場や有翼ロケット打上げ実験、小型人工衛星開発などの学生課外活動が盛んで、PBLなどの講義とあわせて実践力・応用力の強化に力を入れています。また国際交流協定校や海外インターンシップへの派遣を通じてグローバル人材育成にも注力しており、非常に高い就職率に結びついています。