ストレスに反応する脳細胞を発見! 観察方法の工夫と改良が道を開く
脳の観察は難しい
精神疾患との関係が深い脳の細胞を見つけようと、進められている研究があります。精神疾患を持つマウスの脳を光学顕微鏡で撮影して、どの細胞が異常に反応しているかを調べるのです。従来の方法では、最初に脳を薄くスライスして、その切片をスライドガラスに乗せて撮影していました。撮影後に大量の写真をつなぎ合わせて脳全体の画像を作りますが、この方法は大変時間がかかるほか、切片がしわになると画像がきれいにつながらないなど、多くの課題があります。
手法の改良で撮影時間を短縮
課題を解決するために、対物レンズに脳をそのまま近づけて、撮影を終えた部分のみを切除していく手法が開発されました。この方法を使うと、従来の手法に比べて画像がきれいにつながります。しかし、欲しい解像度での撮影には数日間ほどかかっていました。
そこで時間がかかる部分を精査して、観察方法の改良が進められました。例えば顕微鏡の倍率の見直しです。顕微鏡は倍率を上げるほど写る範囲が狭まるので、たくさん撮影する必要があります。そのため細胞の観察に支障がない程度の、高すぎない倍率に調整されました。ほかにも細かな部分が改良された結果、撮影時間が約18分の1の最短2.4時間になりました。画像の比較にも機械学習を導入することで、解析時間の短縮や精度向上に成功しています。
ストレスに関する細胞を発見
撮影や解析にかかる時間が大幅に短縮されると、複数の脳を比較しやすくなります。そこで強いストレスを受けているマウスとそうでないマウスの脳全体を複数個比べて、反応している細胞が分析されました。すると先行研究では注目されてこなかった脳の「前障」という領域の神経細胞が、ストレスを受けると強く活性化することがわかりました。その後行われた実験では、前障の活性化を抑制するとストレス症状が出にくくなることが確認されています。
今後も初めからターゲットを絞らずに脳全体を観察すれば、精神疾患のメカニズム解明や、治療法の開発につながる発見があるかもしれません。
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大阪大学 薬学部 薬学科 教授 橋本 均 先生
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