共通性と多様性を探る人類学から見たイスラム教とは?
唯一神以外にも信仰の対象がある
イスラームと聞くと唯一の神を信じている印象が強いかもしれません。しかし多くの信徒は神のほかに、聖者も信仰の対象としています。キリスト教のカトリックなどにも聖人がいますが、教会が誰が聖人かを決めるのではなく、イスラームでは人々が聖者と考えれば、その人物が聖者となるという自由さがあります。聖者のためには大きなお墓が作られ、そこに置かれた聖者の衣服などの遺品が大切にされます。そうした聖遺物に触るなどすると、子どもを授かる、病気が治る、願いごとがかなうなど、さまざまな御利益があるとされます。こうした信仰は日本人が寺社でお参りをする習慣とも似ています。
お参りすると病気が治る?
例えばエジプトのカイロにはサイイダ・ゼイナブというムハンマドの孫娘のお墓があります。お墓にはたくさんのランプが飾られており、使われている油には目の病気を治す効能があると信じられています。この聖者は目の病気、そのほかさまざまな病気を癒す効験で知られ、毎年大きなお祭りも開催されます。
一方で、人々の信仰が廃れて忘れ去られてしまう聖者も珍しくありません。名前や逸話がわからない聖者の墓も、イスラーム世界の各地に見られます。ときには信じられ、ときには忘れられてしまう聖者たちは、ムスリム(イスラーム教徒)の暮らしに希望と彩りを与えてくれる存在であり続けてきました。
普遍性と多様性を探る人類学
人類学は文化の違いを研究する学問だと思われがちです。しかし、異なる暮らしぶりに共通する部分を探すこともこの学問の目的です。例えば葬儀には、火葬や土葬、水葬などさまざまな方法がありますが、葬式を挙げる習慣のない文化はありません。葬儀は人間にとって普遍の行いだといえるでしょう。イスラームとキリスト教は多くの点で歴史的にも重なる部分の多い宗教ですが、まったく異なる起源の宗教の間にも共通の性質、例えば自分たちの理解を超越した存在を信じるといった性質が普遍に備わっています。それを追っていくのもまた人類学の役割なのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
上智大学 総合グローバル学部 総合グローバル学科 教授 赤堀 雅幸 先生
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