シェイクスピアの演劇ではなぜ独り言が多いのか?
『ハムレット』の台詞に多い独り言
ウィリアム・シェイクスピアは16世紀から17世紀にかけてイギリスで劇作家として活躍し、現代でも世界中で愛好されている数多くの作品を世に送り出しました。彼の作品を分析すると、同時代のほかの作家には見られない特徴を備えていることがわかります。それは「登場人物の独り言がとても多い」という点です。例えば彼の代表作『ハムレット』の場合、台詞の大半はハムレットの独り言です。その狙いは、一体何だったのでしょうか。
自意識と周囲とのギャップを描く「独白」
シェイクスピアの演劇では、ある登場人物の考えていることについて、別の登場人物にはわからないけれど、観客には伝わるという状態にしたいとき、独り言、つまり「独白」という手法が用いられています。当時のイギリス社会は、ちょうど近代への過渡期にあり、人々に個人としての自意識が芽生えはじめていた時期でした。自分はこんなにも悩んでいるのに、周りの人は何もわかってくれないという、自意識と周囲とのギャップに悩む人々が増えてきた世相を、シェイクスピアは「独白」というスタイルでうまく描き出し、観客の共感を集めることに成功したのです。
不朽の名作となった理由
当時のロンドンは、急速に人口が増え、衛生状態の悪化にともなう疫病の発生など、さまざまな社会問題を抱えていました。シェイクスピアと同世代の劇作家たちはそうしたロンドンを題材にした演劇を次々に発表しましたが、シェイクスピアは、世相はとらえつつも、作品の舞台はイタリアやオーストリアなどを選んでいます。それは、ほかの作家への対抗意識や、主要な観客層であるロンドンの上流階級の趣向を意識したからという理由もあったと考えられます。ただ、結果的に彼のその選択が、作品に時代の変化に左右されることのない一種の普遍性をもたらしました。物語そのものが優れているのはもちろんですが、彼の作品が今に至るまで不朽の名作とされている要因は、そのような点にもあるのです。
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専修大学 文学部 英語英米文学科 教授 末廣 幹 先生
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