音楽史の中の作品と「美的現在性」
芸術と「美的現在性」
「美的現在性」とは、あまりなじみのない言葉ですが、芸術史を考えるうえで、大変重要な概念です。
世界史や日本史などを構成する「出来事」と違い、音楽史や美術史などの芸術史を構成する「作品」は、現在の私たちにとって価値があるものである場合がほとんどです。例えばベートーベンのシンフォニー(交響曲)は、現代の生活の中で重要な役割を持っています。多くの人がベートーベンの曲を聴きたいと思っており、演奏したいと思っている人もたくさんいます。年末には「交響曲第9番」があちこちで上演されます。このように、作曲された時代を超えて現在にも効力がおよんでいる作品を「美的現在性がある」と言うのです。
音楽史における特徴
音楽以外の芸術ジャンルにも、「美的現在性」があります。例えばレオナルド・ダ・ヴィンチの作品は、時代を超えて親しまれています。
しかし、音楽作品における「美的現在性」には、美術や文学などにはない特徴があります。それは音楽には「再現」が必要だということです。美術作品は美術館などで鑑賞することができます。しかし音楽作品の場合は、聴きたいと思ったら、何らかの形で再現が必要です。過去に作られた曲の再現には、現在の演奏家の演奏が必要不可欠であり、そのとき現在の演奏家には高い音楽性が求められます。
現在に再現された音楽作品は、過去の作品であるとともに、現在の演奏家の音楽性が反映されることから、現在の作品でもあるという意味合いがより強くなります。音楽作品における「美的現在性」の特徴がここにあります。
音楽史の役割とは
こうした「美的現在性」のある作品について解説することが、音楽史の重要な役割の一つです。現在の私たちが好んで聴いたり演奏したりする作品が、誰によって、いつ、どのような背景をもって生まれてきたのか、それがどのように演奏され、受容されて、今日に至っているのか、などについて研究し著述することが、音楽史の根幹をなしていると言えます。
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