社会も映す、映画をたどる
映画をみるだけではない
映画研究では、映画をよくみて、分析することが大切です。さらに、資料も研究対象になります。小津安二郎監督の台本や構想ノートなら、映画をみるだけではわからない制作過程が、ときに生々しく記されています。資料から、制作過程や映画史を検討することも可能です。しかし、そこに記されていない情報もあります。答えがどこかに「すでにある」わけでもないのです。何があるのか、何がないのかを確認し、ときには自分の問いを見直す必要にも迫られます。大変にも思われますが、新たな事実を確認し、価値観がゆさぶられる瞬間です。
小津安二郎と里見弴
小津安二郎は、国内外で高い評価を得ています。そう聞くと、研究が難しく思われるかもしれません。しかし、映画にも資料にも、まだまだおもしろいと思えるところがたくさんあります。たとえば、映画『早春』の台本には、青鉛筆で多数の書き込みがありました。筆跡をみて調査を重ねると、作家の里見弴(さとみ とん)によるものだと確認できました。さらに、一部は実際に『早春』に採用されていたのです。小津は里見の愛読者で、里見の文章を手本にしているとまで語っていました。この台本の事例は、ふたりの関わりを示すものだといえるでしょう。
映画は社会も映す
映画『伊豆の踊子』から考えてみましょう。踊子をその時代のアイドルが演じ、これまでに6回映画化されてきました。うち2回は同じ監督の作品ですが、踊子には大衆のイメージや欲望が投影され、同じ場面でも異なる演出がなされています。このように俳優や、同時代の広告、雑誌なども検討し、映画を研究していくことも可能です。
映画は総合芸術と呼ばれるように、多くの要素を含んでいます。日本の家庭を描いたと言われる小津の映画も、社会と無縁ではありません。主題や小道具、音楽ひとつとっても、語り尽くせない力があります。映画はみるだけでも楽しいですが、研究にも、とてもおもしろい対象です。
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同志社女子大学 表象文化学部 日本語日本文学科 准教授 宮本 明子 先生
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