言葉が海を渡るとき~アフリカにおける「英語文学」の過去と現在~
海を渡った英語
英語圏は、世界中に広がっています。それは、イギリスが17世紀以降、植民地を求めて世界に進出したことと関係があります。イギリスの植民地では、英語による統治が行われ、英語と英国文学・文化が伝えられるとともに、支配された人々は、半ば強制的に英語を使わざるを得なかったからです。こうして、海を渡った英語は、植民地支配の中でそれぞれの国に根づいていきます。
アフリカの「英語文学」
アフリカにおけるイギリス植民地でも同様です。南アフリカは、古くからのイギリス系入植者が多く、彼らが書いた英語文学は、20世紀以前から存在し、本国でも出版され、読み継がれます。アフリカ人の作品も早くから存在していました。ほかのアフリカ諸国では、植民地支配が終わる1960年代以降に数多くのアフリカ人作家が活躍するようになります。
なぜアフリカの人々は、独立後も自分の民族の言葉ではなく、英語で文学を書いたのでしょうか。植民地支配の過程で、英語が事実上の「公用語」となり、生活の中に浸透していたことが背景にあります。また、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)の下では、差別政策として黒人への現地語教育が奨励され、それに抵抗して英語を使用する動きもありました。さらに、「英語文学」には、翻訳なしで世界に発信できるメリットがあります。支配や差別の苦しみ、白人が歪曲した民族の真の歴史、独立後の独裁政治の現実などを国際社会に訴えるためには、英語で書くことに意味があったのです。もちろん、この傾向を「英語で書くことこそが、植民地化された精神の現れ」と批判し、民族語で書く作家も育っています。アフリカの英語文学を学ぶことはこの矛盾を考えることでもあります。
イギリスの側にも変化が
イギリスにも変化が生まれています。かつての植民地からの移民を受け入れ、多民族国家となったイギリスでは、アジア・アフリカ系の作家が活躍するようになりました。海を渡った英語は、世界中で「英語文学」を作り出すとともに、本国イギリスをも変えつつあるのです。
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東京女子大学 現代教養学部 国際英語学科 国際英語専攻 教授 溝口 昭子 先生
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