固有の歴史から生まれる沖縄文学の意義

複雑な歴史をもつ沖縄とその文学
かつて琉球王国だった沖縄は、明治時代になってから日本に編入されました。その後、敗戦を経てアメリカ軍の施政下に置かれ、1972年に日本に返還されるという複雑な歴史的経緯をたどっています。返還後も米軍基地は沖縄と深く関わり、さまざまな摩擦や問題も生じてきました。沖縄には沖縄弁という方言があり、言葉も標準語とは大きく異なります。言葉も文化もほかの日本地域とは異なる沖縄が、自分たちのアイデンティティを問い直しながら生み出していったのが沖縄文学です。
初の沖縄出身の芥川賞作家
沖縄出身の作家で初めて芥川賞を受賞したのが大城立裕です。大城は終戦を迎える時期に上海にいたため、沖縄戦を体験していません。焼け野原となった沖縄に戻った大城は、沖縄とは何かを問いながら小説を書き続けました。1967年に芥川賞を受賞した『カクテル・パーティー』の舞台は、米軍統治下の沖縄です。物語は沖縄県民(主人公)、アメリカ人の兵士、中国人の弁護士、そして本土出身の新聞記者の4人の交流(パーティー)と、米兵による主人公の娘の性的暴行を通じて、国際親善の欺瞞(ぎまん)があぶり出されていきます。 1960年代には、戦争の被害者として語られることが多かった時期において、戦時下の日本が中国で行った加害性も突きつけるという意味で、先駆的な意義をもつ作品です。
人々の声を拾う
日本にとっての終戦は8月15日ですが、沖縄では6月23日に地上戦が終結しました。しかし、その後もゲリラ戦的に戦闘は続きました。沖縄文学を通じて、教科書に載るような歴史記述からは外れた人たち、苦労した人や、犠牲になった人々の声を知ることもできるのです。沖縄以外では当たり前とされる常識を揺さぶり、痛みや共感を突きつけてくるところに、沖縄文学の特徴があります。今後は沖縄文学の自立性を認めつつ、それが日本文学、あるいは世界文学の中でどのように位置づけられるのか、広い視野で見ていくことが必要となるでしょう。
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愛知淑徳大学創造表現学部 創造表現学科 創作表現専攻 准教授柳井 貴士 先生
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日本近現代文学、沖縄近現代文学先生が目指すSDGs
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