米国のイクメン映画から考える、ジェンダー問題の理想と現実

米国のイクメン映画から考える、ジェンダー問題の理想と現実

欧米諸国は本当にジェンダー先進国か?

世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数のランキングで、日本は120位前後と低迷しています。それだけ日本社会に男女間の不平等の事例が多いことは事実です。では、アメリカなどランキング上位に位置する国を、ジェンダーに関して日本よりも進んでいるモデルとして漠然と受け入れてしまってもいいのでしょうか。

男性に都合のいい「理想的な父親」

1979年公開のダスティン・ホフマン主演の『クレイマー、クレイマー』や、1993年公開のロビン・ウィリアムズ主演の『ミセス・ダウト』など、20世紀後半の米国では、離婚の危機に陥って子育てに奔走する父親を主人公にした、いわゆる「イクメン」のはしりとも呼べる映画が人気を博しました。一見こうした映画はジェンダーの面でも先進的な作品に思えます。これらの映画では、白人中流階級の主人公を、家事や育児をこなしつつ仕事とも両立させる理想的な父親として描いています。その一方で、これらの作品は主人公の妻を「育児よりも仕事を優先するキャリア・ウーマン」というステレオタイプに還元し、父親と子どもとの絆を脅かすような存在として位置付けています。結果としてこれらの映画はいささか男性に都合のいいジェンダー観を持つ作品になってしまっているのです。

社会から家庭へのサポートが乏しい米国

米国では「自己責任」をキーワードにした新自由主義の考え方が根強く、1980年代以降、社会が家庭を公的にサポートする機会は減っていきました。例えば現在、アメリカでは保育施設やベビーシッターにかかる費用は非常に高額です。何もかもこなせる理想的な父親になれるのは映画の主人公だけで、実際の家事や育児には社会や周囲の人々からのサポートが不可欠ですが、米国では、国家や自治体がその役割を十分に果たせていないのです。海外の映画や文学作品に触れる時は、作品の背後にある社会構造やジェンダーの課題などにも思いを巡らせ、そこで得られた知見を日本の社会に生かすという視点も重要です。

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フェリス女学院大学 文学部 英語英米文学科 助教 関口 洋平 先生

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ジェンダー学、アメリカ研究学

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メッセージ

今の日本の中学校や高校では、ジェンダーについて体系的に学ぶことのできる機会は、残念ながらあまりありません。しかし、社会に出れば、私たちが抱えているジェンダーにまつわるさまざまな課題に、誰もが直面することになるでしょう。できれば、社会に出る前、高校や大学で学んでいるうちに、ジェンダーについても興味を持ち、さまざまな角度から知識を吸収して、より正確な認識を持てるようになってほしいと思っています。

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