とんがった時代の『クリスマス・キャロル』
クリスマスに怪談を読む?
怪談や怖い話といえば、日本では夏のイメージですが、19世紀のイギリスでは冬に怪談や怖い小説を読む習慣がありました。毎年、クリスマスになると、雑誌ではそのようなクリスマス・ストーリーの特集が組まれたのです。1843年に、その一編として発表されたのが、イギリスの国民的作家チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』です。けちで冷酷な主人公が、過去・現在・未来の自分の姿を見て、心を入れ替えるという他愛無い物語ですが、当時は大人気を博しました。一体、ディケンズは何を訴えたかったのでしょうか。
イギリス人が大事にする経済的自由
ディケンズの作品を読むと、一生懸命働いて、よい人に恵まれて、最後は幸せになる、というパターンが見受けられます。その土台となったのが『ウィッティントンと猫』という立身出世の民間伝承やホガースという18世紀の画家の作品でした。そこから、「イギリスらしさ」を見てとることができます。例えば、「自由」というと、フランスでは政治的に、ドイツでは哲学的・芸術的にとらえられますが、イギリスでは経済的自由を意味します。人々は所有権・財産権にこだわり、自分の努力と才能で経済的に成功すること、そして、自立し家庭を営むことを夢見るのです。ディケンズ作品は、そんなイギリス人の集合的無意識の下に成立したのです。
理想の家庭像・主人と召使の関係
経済的な成功を夢見た人々が得たかったことは、二つあります。まず、幸せな家庭生活です。当時は経済的な理由から家庭を維持できない人々(その多くは労働者階級)が大半でした。この演出に一役買ったのが『クリスマス・キャロル』と当時のヴィクトリア女王夫妻です。二つ目は、スクルージーとボブ・クラチットに代表される理想的な主人・召使の関係です。世界史を思い出してください。1840年代のイギリスはチャーティズム時代といい労使が鋭く対立した時代でした。このようなとんがった時代では、よき家庭人、よき雇い主(企業人)が何よりも求められたのでした。
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先生情報 / 大学情報
愛知県立大学 外国語学部 英米学科 教授 榎本 洋 先生
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