「個人的」行動は実は個人の意思では決まっていない
社会問題化した「10代女性の望まない妊娠」
イギリスでは1980年代から、「10代女性の望まない妊娠」が社会問題として取り上げられるようになりました。10代女性1000人あたり30人前後、国全体では9万人前後の10代女性が妊娠するという、ヨーロッパ諸国でも突出して高い数字が、何年間にもわたって続いたのです。
10代で出産すると、母親は学校に通えなくなり、安定した仕事に就くことも難しくなります。結果として、生まれてきた子どもは貧困な環境で十分な教育を受けられないまま育つことになりかねず、福祉政策の破綻や犯罪増加が危惧されます。政府は性教育の義務化や避妊行動の啓発を進めましたが、大きな効果は得られませんでした。
問題解決のため「そもそも」の原因を追究
一部の国を除き、「政策」が個人の領域にまで踏み込むことはありません。個人の思想や言動などの自由は、国のルールで守られているからです。ただし、それが「個人の行動まではコントロールできない」という、政策の限界にもつながっています。イギリスの場合も、まさにそうでした。事態が動き始めたのは、改革を重視するトニー・ブレア氏が首相に就任した1997年ごろからです。同首相は、10代の妊娠率が高い地域と貧困エリアが重なっていることに注目して、当該地域における教育環境や社会構造を調査することで、問題の背景にある要因をピックアップしたのです。
政策は明確な理由と対策があってこそ
この政策は、問題のそもそもの原因を探り、10代の母親に対する生活支援、貧困地域における雇用調整や若者への助言、地域コーディネーターの設置など、総合的かつ複合的に進められました。試行錯誤はあったようですが、10代女性の妊娠件数は減少に向かっています。
なんらかの対応策を推進するためには、単なる呼びかけではなく、根本的な原因は何か、それに対して具体的に何をするのかを総合的に考えなければなりません。イギリスの取り組みは、その好例と言えるでしょう。
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専修大学 人間科学部 社会学科 教授 広瀬 裕子 先生
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