若者はどうアイデンティティを確立する?
思春期文学・映画というジャンル
アメリカでは12~18歳の若者をターゲットにした思春期文学・映画が一つのジャンルとして確立しています。例えば2017年の映画『レディ・バード』もその一つです。本名を嫌い、「レディ・バード」と自称する17歳の少女クリスティンの高校最後の1年を描いたこの作品は、親子関係、友情や恋、自分の将来に悩みもがきながら、自分を見つめ直し受け入れて成長する物語です。
アイデンティティを確立する物語
人生の中でステップアップする時、人は以前のステージから「分離」し、「過渡」の状態を経て、次のステージに「統合」されます。クリスティンはまさに少女から大人に移行する途中の「リミナリティ(境界の領域)」に存在し、どっちつかずであいまいな「リミナル・ペルソナ(境界にある人間)」の状態にあります。クリスティンは、どう次のステージへ昇るのでしょうか。そのカギとなるのは思春期の少年少女を取り巻く権力です。
思春期に出会う権力は、学校、家族、宗教、性、階級、死などさまざまです。作中、クリスティンが走る車から飛び降りる衝撃的なシーンがありますが、これは死という手段でしか母親の抑圧から逃れられないと彼女が感じていることを象徴しています。クリスティンは、権力に抵抗する中で自分を見つめ直し、アイデンティティを確立していきます。
マイノリティが主人公の思春期文学
アメリカには、アジア系やアフリカ系、中南米カリブ系などマイノリティが主人公の思春期文学も多数あります。子どもから大人への移行期を縦軸のリミナリティとするなら、他国にルーツを持つ登場人物には、二つの文化の間にあるという横軸のリミナリティもあります。かれらは例えば、親の期待と自分たちが望む生き方との間で葛藤しながら自分の答えを出していきます。
このように、属性が異なればアイデンティティ確立の次元にも違いがあります。思春期という観点で作品を比較して、特徴や共通点を分析し考察することも外国文学を読む面白さの一つです。
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常葉大学 外国語学部 英米語学科 准教授 天野 剛至 先生
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