造形作品の本質を言葉で表現! アート研究の難しさと魅力とは?
「作品が作られた時代の価値観」を知る
あなたは美術・デザイン・建築作品を見て、心が揺さぶられた経験はありますか。「アートを研究する」とは、心揺さぶる造形作品の本質を文字言語として表現していくことです。視覚言語を文字言語で表現するには、対象についてあらゆる角度から考察・分析する必要があります。重要なポイントの1つは「作品が作られた時代の価値観」を知ることです。例えば、近世イギリスでは男性の服装が非常に華やかでした。現代の紳士服はシンプルなデザインのものが多いので、今の価値観では少し不思議な感じがするかもしれません。
近世に男性が華やかな服を着ていた理由は?
しかし当時の価値観では、男性の華やかな服装は普通のことでした。なぜならイギリスには古くから刺繍文化があり、聖職者の祭服などに壮麗な文様の刺繍が施されていました。聖職者は男性のみでしたから、宗教改革後、華やかな刺繍文様は、世俗の男性の衣服に違和感なく広がっていきました。このような当時の価値観を知るためには、同時代の資料を読むことが欠かせません。特にデザインや建築は生活に密着したアートなので、作られた時代や社会について深く学ぶことが重要です。一方、美術作品の中には社会の「常識」を超越したものがあるため、当時の価値観を知るだけでは理解が難しい場合があります。
アーティストの言葉も作品を読み解くヒントに
そのような場合はアーティストが残した言葉や作品が作られた状況など、作品そのものについてもよく調べる必要があります。例えば、ポップアートの先駆者であるリチャード・ハミルトンは、非常にリアルな「アンプを描いた絵」を制作しました。なぜこうした作品を作ったのか、本人が残した言葉などを手がかりに調べたところ、「アンプの持つ機能を外観の絵だけで視覚的に示そうとした」ことがわかってきました。このように学問としてアートを読み解くのは決して簡単ではありません。そこにはアーティストの意図が確実に存在し、その本質を見抜く力が必要なのです。
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宮城学院女子大学 学芸学部 英文学科 教授 吉村 典子 先生
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