歴史的な建築を知ることで、見えてくるものとは
日常生活に数百年前の建築が溶け込む欧州
ヨーロッパでは、日常生活の中に歴史的建築が息づいています。ローマなどでは、600年以上前から建っている建築、それよりもっと古い建築もたくさん残っています。それらが、オフィスや商店、住宅として、現代のライフスタイルに合わせて豊かに活用されています。日本にも古い建築は多く残されていますが、日常生活と切り離されたものがほとんどです。古いものに普遍的な価値を認めて保存するだけでなく、歴史的な建築やそこからの学びを現代の暮らしにどう生かすのかも、これから求められていく知恵です。
現代建築に継承される歴史的建築
明治時代より、国内にも積極的にヨーロッパの建築文化が導入されました。日本の産業革命を牽引した群馬県の富岡製糸場は、その代表例です。国宝で世界遺産にも登録されたこの建物は、フランス人の設計によって1872年に完成しました。木材の骨組に煉瓦(れんが)積みを組み合わせた木骨煉瓦造という造りです。多数の観光客を迎えることになった製糸場の最寄り駅である上州富岡駅は、日本の建築家ユニットTNAの設計によって2014年に完成しました。鋼材の骨組を煉瓦積みで補強する造りで、製糸場を成立させた明治の建築手法が、平成のデザインとして、読み替えられているのです。
建築によって結ばれる過去と未来
富岡製糸場のように歴史的建築が今日まで残されていれば、建築に込められた先人の知恵や心意気を直接学ぶことができます。そして、現代建築に参照できる文化として引き継ぐこともできます。建築の寿命は私たちより、ずっと長いものです。私たちは現代を生きていますが、過去の建築を通して先人の声を聞くことができます。例えば、日本の1950年代の建築には、戦後社会への明るい期待が、1980年代後半のバブル期の建築には、高級な素材、遊び心があるデザインが発見されます。建築は過去と現在をつなぐ記憶の箱であり、建築を通して未来の世代に思いを託すこともできるのです。
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先生情報 / 大学情報
前橋工科大学 工学部 建築・都市・環境工学群 講師 臼井 敬太郎 先生
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