脳の癖を解き明かす 〜認知研究が切り開くデザインの未来〜
脳の情報処理には癖がある
「見た」という感覚は、眼球ではなく、脳内で視覚情報が処理されることによって生じます。この脳内の情報処理には癖があることがわかっています。有名な事例として、エビングハウス錯視が挙げられます。エビングハウス錯視とは真ん中に置かれた円とその周りを囲うように配置された円達の大小関係によって、真ん中の円の大きさが変わって見える錯視のことで、周りの円達が大きければ真ん中の円は小さく、小さければ大きく感じられます。他にも、同じ色同士であっても、周りの色が異なることで全く違う色に感じられるなど、脳の癖を調べた認知研究は数多く存在し、それらの知見は、デザインに広く取り入れられています。
優れたデザイナーは脳の癖をうまく利用している?
現在、世の中には直感的な操作のしやすい製品が多く見られるようになりました。脳の癖に関する知見は、こうした操作のしやすさを実現する下支えとなっていますが、それだけではなく、デザイナーが自身のアイデアを他者により良く伝えるためにも活用されています。デザイナーはアイデアをスケッチに描き起こして伝えますが、イメージをより良く伝えるためにあえて写実的には描かず、一部を大きく誇張して描く、注目してほしい箇所以外は描き込みをほとんどしないといったデフォルメを意図的に行うことがあります。スケッチによる情報伝達が優れたデザイナーは、デフォルメを上手く使いこなし、相手に抱かせたい印象さえもコントロールできてしまうのです。
視覚認知研究のこれから
近年、バーチャルリアリティ(VR)技術の発展に伴い、まさに自身が「その場にいる」といった臨場感を味わいながら、仮想空間に入り込む事が可能になりました。視覚認知研究では、この臨場感の認知メカニズムの解明に注目が集まっています。VR技術は、現在でも多岐にわたる分野で活用されていますが、社会へ更に普及することが見込まれています。臨場感に関する知見を活かして、デザイナーが仮想空間を設計する未来もそう遠くは無いかもしれません。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
前橋工科大学 工学部 建築・都市・環境工学群 助教 赤間 章英 先生
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