鍼が脳梗塞の治療に役立つ? 刺激と自律神経の関係を探る
足に鍼をすると心拍数が下がる
ひざの下にある三里(さんり)というツボに鍼(はり)で刺激を与えると、心拍数が下がります。しかしなぜ心拍数が下がるのかといった仕組みは、これまで謎に包まれていました。鍼の刺激によって副交感神経が有利になったからと考える人が多いようです。そこで心臓を支配する副交感神経の働きが遮断されたラットの足に鍼で刺激を与える実験が行われました。その結果、心臓の交感神経活動が弱まり、心拍数が下がることが確認されました。つまり足からの刺激が、交感神経の興奮を鎮めて身体をリラックスさせることで、心拍数が下がるメカニズムが存在することがわかったのです。
よりよいオーダーメイド治療のために
鍼などの東洋医学ではひとりひとりの状態に合わせたオーダーメイド治療が古来より行われてきました。しかしその方法の多くは経験に基づいた知識と技術によって培われてきました。患者さんの自律神経機能の状態、例えば交感神経が興奮しすぎた人、副交感神経が興奮しすぎた人に対して、どのような刺激が適切なのか。刺激量や刺激部位の違いが自律神経に与える影響を科学的に明らかにすることで、より適切なオーダーメイド治療ができると期待されています。
鍼が脳梗塞の治療になる?
研究例のひとつが、脳血流におよぼす鍼の効果の解明です。目の周りに刺激を与えると脳血流が増えるといわれていますが、仕組みはまだわかっていません。例えば目に刺激を与えると、周囲の感覚神経から脳幹に刺激が伝わり、副交感神経系の血管拡張物質が脳内の血流を増加させるのではないかと、動物を対象に実験が始まりました。
もし血流を鍼で増やすことができれば、脳に血液が十分にいかなくなってしまう脳梗塞などの治療に貢献できるでしょう。収縮した血管を広げて血流を増やせば、脳へのダメージを抑えられるからです。中国では脳の血流が悪くなった動物や人間に鍼刺激を与えた結果、認知機能などが回復したという論文が最近増えてきました。日本でも、その仕組みを明らかにしようと研究が進行中です。
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先生情報 / 大学情報
筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 准教授 志村 まゆら 先生
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