講義No.09232 数学

順列・組み合わせより微分積分が得意な人の方が確率論に向いています

順列・組み合わせより微分積分が得意な人の方が確率論に向いています

確率=積分!?

確率と聞くと順列・組み合わせを連想する人も多いと思います。「確率が苦手です。微分積分なら得意だけど……」という声もよく聞きます。しかし、確率は積分なので、確率論は微分積分学の先にある解析学の一分野なのです。確率論の研究者は、順列・組み合わせを使った研究ではなく、積分を研究しているのです。あなたが微分積分が得意なら、確率論の研究をするのに向いているかもしれません。

すべての分布の中心に位置する分布

サイコロ投げやコイン投げなどの試行を繰り返し行うとき、その結果の合計はいろいろな値を取りますが、出やすい値や出にくい値があるのは当然です。それぞれの値とその確率を対応させたものを分布といいますが、もちろん、サイコロの場合とコインの場合とではそれらの分布は異なります。しかし、試行の繰り返し回数を大きくしていくと、それらはすべてガウス分布(正規分布)と呼ばれる一つの分布に近づいていくことが知られています。サイコロやコインだけではなく身長でもセンター試験の点数でも、あらゆるデータが、個数が多くなればガウス分布で近似できるのです。このことを「中心極限定理」と呼びます。無限にたくさんあるあらゆる分布たちの中で、ガウス分布はそれらの中心に位置する重要な分布であると言えます。

抽象的に更なる発展へ

中心極限定理のポイントは各試行の独立性です。これは普通の確率論では、1個目のサイコロと2個目のサイコロが無関係という意味ですが、現代数学には、この概念を抽象的に拡張した量子確率論という分野があります。量子確率論においては、もはやXY≠YXであり、独立の概念も抽象的に定義されています。そして、複数の種類の独立性が定義され、「○○独立ならば極限分布が○○分布であり、△△独立ならば極限分布が△△分布である」という量子中心極限定理が証明されています。ちなみに、この証明には順列・組み合わせが主に使われています。あなたが順列・組み合わせが得意なら、量子確率論の研究をするのに向いているかもしれません。

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佐賀大学 理工学部 理工学科 数理・情報部門 准教授 日比野 雄嗣 先生

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メッセージ

あなたは大学で学ぶ学問を検討する際、「将来、◯◯の役に立ちそう」とか「△△系への就職に有利かも」といったことを重視していますか。もしもそうなら、突き放すような言い方ですが、数理科学科や数学科以外の学科の方が向いていると思います。
大学で、「専門的に」数学を学ぶ上で必要なのは、「数学が好き」という気持ちです。研究結果をどう生かすか、何に使うかよりも、真理の追究が研究の動機になります。深遠なる数学の世界で、関心ある事柄をひたすら研究したいと考えている人を、数学界は待っています。

先生への質問

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佐賀大学は、教育・芸術地域デザイン・経済・医・理工・農の6学部からなる総合大学です。キャンパスは本庄地区と鍋島地区に分かれ、どちらも緑溢れるのどかな環境にありながら、九州の中心地である福岡へJRで約30分で行けるアクセスの良さです。本学は学生生活から就職活動、さらには就職後まで「面倒見の良い」教育を進め、卒業生が愛校心を持ち続ける教育を実践し、学生に選ばれる大学をめざしています。研究面においては、産官学共同研究を中心に、中央の大きな大学にも負けない特色ある研究テーマへの取組みを推進しています。