森と海のつながりを、経済学で可視化する
大自然がもたらす、目に見えない恵み
大自然がもたらす恵みは、私たちの日々の暮らしに欠かせないものです。しかし、自然界のさまざまな営みの中でも、私たちの目に見えない働きについては普段なかなか認識できません。例えば、森には木材としての目に見える価値のほかにも、生物の多様性を守る機能や、雨が降ったときに水を蓄える機能、栄養を海に届ける機能、気候変動を緩和する機能など、無数の役割があります。「環境経済学」は、経済学の仕組みを使って人と環境と暮らしの接点を考えていく学問です。その手法を用いて、私たちが見逃してきた自然の恵みを正しく認識し、その価値を可視化していきます。
森と海はつながっている
「森は海の恋人」という言葉があるように、豊かな森を作ると遠く離れた海にも栄養が流れていき、漁業に大きな実りをもたらします。こうした森と海のつながりは漁師たちの間では直感的に知られていたものの、実際にそのつながりの重要性を裏付けるデータはこれまではありませんでした。そこで広島のカキ養殖に関して、漁業と森林双方のデータをとり、森の保全がカキ養殖にどの程度の利益をもたらすのかが可視化されました。森の保全には、木のない土地への定植や不要な枝の剪定(せんてい)などさまざまな費用がかかります。しかし研究の結果、森の保全に必要な経費を上回るカキ養殖へのプラスの効果が明らかになりました。こうした例が示すように、森は森、海は海とそれぞれ独立して見るのではなく、上流から下流までのつながりをふまえた一体的な自然の利活用を図る必要があります。
一度壊れると取り戻せない自然環境
地球の温暖化などの気候変動が注目されるようになった1990年頃から、経済学の中でも環境経済学の重要性は高まっていきました。自然環境は一度壊れてしまうと元に戻せなくなる可能性が高く、将来非常に困難な事態になりかねません。取り戻せないラインはどこなのかを特定して、そこを超えないようにするためには何ができるのかを考えていくのが、環境経済学の重要な課題です。
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