スポーツで技術指導が難しいのは、動作メカニズムが複雑だから
スポーツで動作を上手くする科学的な方法とは?
スポーツをしたことがある人なら、私も〇〇選手のように速く走りたい、ホームランが打ちたい、シュートを決めたい、といったことを考えるでしょう。では、どのように体を動かせばよいか、専門的に言うと、どうすれば効果的に動作技術を習得できるのでしょうか。今日のスポーツ科学では、動作技術の習得に関しては、筋力・持久力・心肺能力などの基礎体力とは異なり、こうすれば上手くなれる、という科学的に確立された方法は、残念ながらありません。
動作技術の習得が困難な理由
これには理由があります。まず、人間には数多くの筋肉があって、それらが合理的に組み合わさることで「動き」が作られます。すなわち、制御対象としての体が複雑です。次に、体を制御する神経系も、複数の層構造や非常に多くのニューロンが関与しています。すなわち、制御する主体である脳・神経系も複雑です。
そのため、例えば野球の投手で言うと、コントロールをよくするため・速い球を投げるための理想的なフォームはわかりませんし、あるフォームを実現するための理想的な筋肉の動かし方も組み合わせも、それを実現するための神経活動もわかりません。ましてや、練習を通してどのように学習・習得されていくのか、となると謎だらけです。
動作技術習得に関する原理を探る
一流スポーツ選手や芸術家のような、明らかに優れた華麗な動作だけではなく、水の入ったグラスをとる・障害物を越えて歩く、といった簡単そうに思える日常生活ですら、制御の全体像を把握することは極めて困難です。ヒトの動作メカニズムはとても複雑なのです。しかし、破綻なく行動できているということは、そこに何か明確な原理があるはずです。それを見つけることは、人間の身体の理解をより深めることになるのです。このような理解は、スポーツ動作技術の効果的なトレーニング方法の開発だけではなく、ロボティクスやリハビリテーション科学といったさまざまな分野にとって、重要な基礎となるのです。
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広島大学 総合科学部 総合科学科 准教授 進矢 正宏 先生
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