海に残された化学物質の「足跡」を追え!
極域で起きている酸性化
北極海の海水成分を調べると、年々、酸性化していることがわかってきました。大気中の二酸化炭素濃度が高まることで地球温暖化が進み、北極海の海氷は大幅に融解しています。海氷は塩分を含まないので、海氷が融(と)けると海水の塩分濃度が低下します。また、氷というふたがなくなることで、大気中から二酸化炭素を吸収しやすくなり、これらの結果として、海洋の酸性化が進んだと考えられます。北極海では、貝の殻など、生物の炭酸カルシウムでできた部分が溶けてしまうほどに酸性化が進んでいることが判明しました。
化学物質を追う「海洋学」
この事実は、実際に北極海で海水を採取して調べることで解明されました。そのような、海中の化学物質を分析する学問を、「化学海洋学」と呼びます。海に溶けている化学物質の分布を調べることで、海で何が起きているのかを知るのです。海の水は常に動いているので、そこに含まれる化学物質の濃度も変化しています。逆に言えば、化学物質の濃度変化を計測することで、海の動きを解明できるということです。
「化学トレーサー」で海水の動きを知る
流体の動きを知るために使用される物質を「トレーサー」と呼びますが、化学海洋学においては、塩類をはじめとするさまざまな化学物質をトレーサーとして利用し、海水の動きを調べます。例えば、オゾン層を破壊するという理由で生産が禁止されているフロンガスは、生産時期が限られるので、フロンを多く含む海水は、比較的近年のものだということがわかります。海水の動きを知ることは、環境汚染の広がり方を知ること、さらには、魚など海洋生物の量や行動について把握することにもつながります。地球環境における海の役割を知る大事な手段なのです。
海中の化学物質を調べるのは、探偵が犯人の足跡を追うのに似ています。化学物質は、足跡のように確かな証拠として海中に残っているので、その証拠を基に探偵のように謎を解いていくのが、化学海洋学の醍醐味(だいごみ)なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 教授 川合 美千代 先生
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