地下から大切な栄養が届く! 海底湧水が支える海の生態系
海の生態系に栄養塩を運ぶ海底湧水
近年、海洋生態系が炭素を取り込んで蓄積することが地球温暖化や酸性化の軽減に貢献していることが明らかになり、その炭素は「ブルーカーボン」と呼ばれています。日本では、特に海草・海藻類の群落である藻場が重要な役割を果たしています。藻場が生育するには窒素やリンなどの栄養塩が必要であり、その供給源として「海底湧水」が注目されています。
海底湧水は、地下水が海底から湧き出ているものです。雨や雪として地上に降った水(降水)は主に河川として海に流れ込んでおり、海底湧水はそれに比べて小さいと考えられています。一方で、海底湧水が海へ運ぶ栄養塩の量は、地域によっては河川に匹敵すると見積もられています。降水が地下へ浸み込み流れていく間に、栄養塩が溶かし込まれて濃度が高くなるからです。
海底湧水が豊富な島国
大陸では河川の流路網が発達しており、降水は河川に集まりやすくなります。一方、日本のような島国では地形の険しさから河川があまり発達せず、海底湧水の割合が大きくなります。瀬戸内海の生口(いくち)島で実際に調査が行われました。沿岸の海水を採取して、地下水にしかほぼ含まれない物質の濃度を調べ、海底湧水の量を推定したものです。島の周囲18カ所で測った結果、海底湧水は、水・栄養塩の量ともに、島から海へ出ていく量の5割以上を占めていることがわかりました。
藻場への役割
ドローンなどを使った藻場の分布調査から、海底湧水が多い場所で安定的に成立していることが確認されています。また、海底湧水は年間を通じて温度が安定しているため、夏季の海水温上昇が海草類へ与えるダメージを軽減していることも期待されます。生態系への影響をより深く調べるため、一定量の海水中に何種類のDNAがあるかを測定して生物多様性を把握する調査も行われています。
近年、都市部などでは地下水のくみ上げ過ぎによる問題も生じています。海底湧水が果たしている役割を明らかにすることは、賢明な地下水管理と沿岸環境の保全にもつながるのです。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 総合科学部 総合科学科 准教授 齋藤 光代 先生
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環境地質学、生物地球化学、沿岸海洋学先生が目指すSDGs
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