荒れ地での羊の放牧はメリットがいっぱい

荒れ地での羊の放牧はメリットがいっぱい

耕作放棄地で羊を放牧

石川県にある白山麓(はくさんろく)の耕作放棄地に、食肉用の羊を放牧する取り組みが進められています。その目的のひとつは、過疎化や高齢化が進んでいる里山地域でラム肉生産の地域産業を創出し、地域を活性化することです。また、草や木が生え放題の耕作放棄地は、野生動物が住みついて鳥獣被害の原因となっています。このような荒れ地に羊を放して草を食べさせることで、野生動物のすみかをなくして鳥獣被害を減らし、景観の改善にもつながります。さらに、耕作放棄地の野草の利用は、飼料代の高騰のために厳しい状況にある畜産経営にもメリットがあります。このように荒れ地での羊の放牧にはさまざまな効果が期待できるのです。

野草の栄養を最大限利用

6月から10月までの放牧期間は、実際に放牧地へ行って植生や羊の行動を調査します。羊の血液検査や、どの野草をどれくらい食べているのかを調べるためにふんの分析を行います。
食肉用として大きく育てるためには、野草だけでは栄養が足らず、穀物となる補助飼料が必要です。野草は、そのままだとタンパク質が多くエネルギー含量が低いです。羊のような反すう動物の場合、タンパク質から生成されるアンモニアを代謝によって無毒化するために余分なエネルギーを使ってしまうため、あまり好ましくありません。これまでの研究で、野草を一度刈り取って再生させると、5週間後に最適な栄養バランスになることがわかりました。そこで補助飼料のタンパク質を少なくするとともに、野草の再生期間の調整が行われています。

放牧で持続的な畜産をめざす

世界的な飼料作物の不作や飼料の高騰といった問題がある現在、持続可能でかつアニマルウェルフェアにも配慮した放牧を取り入れた畜産が注目されています。耕作放棄地で放牧を続けると植生の変化が生じるため、どのくらいの期間放牧地として使えるのか、植生の回復は可能なのかを今後見極めなければなりません。また放牧が自然環境へ与える影響もこれからの研究課題です。

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先生情報 / 大学情報

石川県立大学 生物資源環境学部 生産科学科 講師 浅野 桂吾 先生

石川県立大学 生物資源環境学部 生産科学科 講師 浅野 桂吾 先生

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動物栄養学

先生が目指すSDGs

メッセージ

畜産というと従来は畜舎で牛や豚を飼うイメージでしたが、ITの導入など畜産業にも「スマート畜産」の動きが生まれています。また、アニマルウェルフェアや飼料の問題など、これまでとは違った視点で新しい畜産を始めなければならない転換期がちょうど今訪れています。若い人たちには、これからの新しい畜産にぜひ関心を持って参加してほしいです。研究のフィールドは羊が放牧された広い大自然の山麓で、その牧歌的な風景には心が癒やされますし、動物をじっくり観察して理解を深めるのは楽しいものです。

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人間の暮らしの根幹を支えている農業生産。その基盤となる自然環境。そして食べるということ。そうした人と自然との関わりをしっかりと見つめ、未来へ生かしていこうとすること。そんな思いを実現するために、本学では少人数制での指導体制(卒業研究指導時、教員1人に対し学生3人以下)を取っています。結果、就職率100%、官公庁就職率25%(2020年3月卒業生)という実績を上げており、地域社会のニーズに応えられるよう努めています。「住みよさランキング2020」全国1位の「ののいち」で私たちと一緒に学びませんか。