食品の新しい殺菌技術は、未来への危機管理
耐熱性食中毒菌の代表、ボツリヌス菌
食品衛生の分野では、一にも二にも、調理や加工における殺菌が不可欠です。微生物である菌は、目に見えません。被害が出て初めてわかるということではいけないので、消費者に向けて安全な食品を提供するための殺菌に多くの労力が割かれています。
ところが、なかには熱殺菌で簡単に死なない菌もいます。レトルト食品において、クリアしなければならない指標となっているのが、食中毒を起こすボツリヌス菌です。手間のかかる熱殺菌以外の方法も研究が進んでおり、プラズマを発生させて殺菌する技術もあります。
プラズマ殺菌技術を食品に展開する難しさ
プラズマ殺菌は、医療機器の滅菌などの分野で実用化されています。しかし、食品の場合は、安全上の問題で、それらの技術をそのまま転用することができません。そこで、窒素ガスや酸素ガスという害のないガスを使ってプラズマ処理をする事で、加圧加熱殺菌よりも低温で、食材に対してやさしい殺菌処理が出来るようになる可能性があります。実用化されれば、農産物はもちろん、加圧加熱処理が出来ないパウダー状の食材も殺菌することができるメリットもあります。また、生肉の食中毒で怖いのは腸管出血性大腸菌のO-157です。この菌は肉の表面に付着するので、表面殺菌が出来るプラズマ殺菌に向いています。
食品業界に必要な菌を活かす技術と菌を殺す技術
プラズマ技術の研究が目的とするのは、将来の食品衛生における危機管理といっても過言ではありません。身近にあるおいしい食品、味噌や酒、パン、ヨーグルトといった発酵食品は、すべて目に見えない菌がその力を発揮してくれています。世界にいる菌のなかで人間が知っているのは1%に過ぎないと考えられており、人間に役立つ菌も害をなす菌も、まだまだたくさんいるというわけです。発酵によって菌を活かし、不要な菌は確実に殺すことができる技術を確立することが、とりわけ食品業界では重要となるのです。
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広島工業大学 環境学部 食健康科学科 ※2025年設置構想中 教授 角川 幸治 先生
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