筋電義手の未来

筋電義手の未来

筋電義手はどうやって動く?

病気や事故により手を切断した場合、代わりになるのが義手です。現在、脳から筋肉に伝える生体信号(電気信号)を感知して義手を動かす「筋電義手」の研究が進められています。手は失われていても、残された筋肉から出る、手を動かすための信号(表面筋電位)をセンサで感知し、義手を制御するのです。この信号を処理して多様な動きを再現する技術において、日本は世界に先行しています。

自然に動かすための研究課題

現在の研究課題は、何気ないスムーズな動きを生み出すことです。現状では、握る、開く、曲げるなどの動きをするには、患者さんが強く意識して力を入れなければならず、義手の操作に負担がかかります。また、筋肉の付き方は人それぞれに違い、動きにも個人差があります。さらに、同じ人でも体調や時間により動かし方は変わります。そうした違いやゆらぎをAI(人工知能)が学習して調整・最適化するようになれば、容易に義手を動かすことができます。
意識せずにする動きは脳から出される電気信号もわずかなので、少ない情報を的確に読み取って動かさなくてはなりません。そこで目の動きを感知するセンサで情報を補い、よりスムーズな動きを作る研究も進んでいます。

手術への応用をめざして

筋電義手の技術を、手術に使われる「ロボットハンド」に応用する研究も行われています。例えば「腹腔鏡下手術」は、体に開けた小さな穴から内視鏡と細長い手術器具を挿入して手術を行います。この方法は、緻(ち)密な作業には向いていますが、スピードが遅く、重い臓器を支えたり持ち上げたりといったことは困難です。一方、患者さんのおなかの中に施術者の手を入れて行うHALSという手術は、スピーディーですが傷口が大きくなります。穴に入れるときには細く、体の中で手の形に展開するようなロボットハンドであれば問題は解決できます。ここに筋電義手を応用すれば、施術者の手の動きとシンクロした直感的な操作も可能です。この技術は動物実験の段階まで進んでおり、実用化が期待されています。

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先生情報 / 大学情報

横浜国立大学 理工学部 機械・材料・海洋系学科 准教授 加藤 龍 先生

横浜国立大学 理工学部 機械・材料・海洋系学科 准教授 加藤 龍 先生

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ロボット工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は体が不自由な人が使うロボット義手の研究をしています。実際に患者さんが使うものを作るときに妥協は許されません。患者さんは義手を心待ちにしているので、中途半端なものを作るとがっかりさせてしまいます。可能な限り完璧なものをめざさなければならないのです。
こういった技術革新の基礎になるのは数学と理科の知識です。今は数学と理科が具体的に何の役に立つのかわからないかもしれませんが、頑張って勉強してください。そして、人の役に立つロボットを一緒に考えていきましょう。

先生への質問

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横浜国立大学に関心を持ったあなたは

横浜国立大学は、高い国際性と実践的な学問を尊重し、社会に開かれた大学をめざします。全学部の学生がひとつのキャンパスで学び、学部の垣根を越えた交流ができ、国立大学には数少ない経営学部も置かれています。新しい潮流を起こして21世紀の人類社会に貢献できるよう、社会からの要請を的確に把握し、国民から委ねられた資源を有効に活用しつつその活動を開放し、社会の期待に応えます。