「車がないと不便」 その要因となる人間の選択行動
移動弱者と公共政策
日本には、車がなければ生活が成り立たない地域がたくさんあります。公共交通機関が不便なため、特に高校生など車を持たない人は自由な移動が困難です。この現象の背景には、人間が行動を選択するときの特徴が関係しています。人間は一般的に、効用が最も大きくなる選択をすると考えられます。効用とは、ある選択をしたときに個人が得る満足度を数値化したものです。例えば多くの人が最も便利な交通手段として車を選ぶと、電車やバスなどの利用者が減ります。すると公共交通機関が衰退し、ますます車の効用が高まります。誰もが自分の効用を最大化しようとした結果、車がなければ不便になる状況が生まれてしまうのです。
個人行動の集積としての社会システム
個人が効用(自分にとって望ましさ)を最大化しようとすると、社会ではほかにも課題が発生する場合があります。例えば公共交通機関を使わないで大勢が車を選択した場合、道路の交通量が増え渋滞が発生するでしょう。たくさんの人が「早く到着したいから」と同じ道路を選択しても渋滞が起こります。すると結果的に、車を使うことによる効用も低下してしまうのです。
それでも個人と社会の効用には相互作用があるため、最終的には「どれを選択しても効用が同じ」という均衡状態に落ち着くと考えられます。交通手段の場合、車を選んだときと公共交通機関を選んだときの効用が同じになれば、人間の行動が分散して均衡状態に行き着くのです。
公共政策が逆の結果に?
人間の行動を分析しておかなければ、公共政策が意図とは逆の結果になってしまう場合があります。例えば生活を便利にするために新しい道路をつくったものの公共交通が衰退してしまい、車の購入費や維持費などで移動にかかるコストが高くなってしまうケースです。これもある種のパラドックスで、社会的ジレンマとも言えます。このような結果を発生させないためにも、目的に応じたモデルを組み上げ人間の選択行動を科学的に予測することが求められているのです。
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金沢大学 融合学域 観光デザイン学類 教授 中山 晶一朗 先生
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