講義No.11629 土木・環境工学 心理学・行動科学 理工系その他

「車がないと不便」 その要因となる人間の選択行動

「車がないと不便」 その要因となる人間の選択行動

移動弱者と公共政策

日本には、車がなければ生活が成り立たない地域がたくさんあります。公共交通機関が不便なため、特に高校生など車を持たない人は自由な移動が困難です。この現象の背景には、人間が行動を選択するときの特徴が関係しています。人間は一般的に、効用が最も大きくなる選択をすると考えられます。効用とは、ある選択をしたときに個人が得る満足度を数値化したものです。例えば多くの人が最も便利な交通手段として車を選ぶと、電車やバスなどの利用者が減ります。すると公共交通機関が衰退し、ますます車の効用が高まります。誰もが自分の効用を最大化しようとした結果、車がなければ不便になる状況が生まれてしまうのです。

個人行動の集積としての社会システム

個人が効用(自分にとって望ましさ)を最大化しようとすると、社会ではほかにも課題が発生する場合があります。例えば公共交通機関を使わないで大勢が車を選択した場合、道路の交通量が増え渋滞が発生するでしょう。たくさんの人が「早く到着したいから」と同じ道路を選択しても渋滞が起こります。すると結果的に、車を使うことによる効用も低下してしまうのです。
それでも個人と社会の効用には相互作用があるため、最終的には「どれを選択しても効用が同じ」という均衡状態に落ち着くと考えられます。交通手段の場合、車を選んだときと公共交通機関を選んだときの効用が同じになれば、人間の行動が分散して均衡状態に行き着くのです。

公共政策が逆の結果に?

人間の行動を分析しておかなければ、公共政策が意図とは逆の結果になってしまう場合があります。例えば生活を便利にするために新しい道路をつくったものの公共交通が衰退してしまい、車の購入費や維持費などで移動にかかるコストが高くなってしまうケースです。これもある種のパラドックスで、社会的ジレンマとも言えます。このような結果を発生させないためにも、目的に応じたモデルを組み上げ人間の選択行動を科学的に予測することが求められているのです。

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金沢大学 融合学域 観光デザイン学類 教授 中山 晶一朗 先生

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融合科学、未来社会デザイン学

先生が目指すSDGs

メッセージ

現代社会は誰でもすぐに情報が手に入る時代なので、その情報をどう使うのか、何が大切かなどをじっくり考え見極める力が求められます。そのためには、物事の本質を見極め、要因を抽出して本質的なメカニズムを形にする力が必要で、それらはあらゆる分野で役に立つはずです。
また、考えるときは「文系は文系の手段だけを使えばいい」「理系は理系の方法に従わなければいけない」という決まりはありません。進路を選択するときも、文理の枠にはまらない自由で多面的な発想で、あなた自身の本質に向き合いましょう。

先生への質問

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  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

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金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。