脳内ネットワークをつくり変えて運動能力を強化する「作業療法」とは
脳に学習ネットワークをつくる
作業療法とは、患者さんの脳の中を変えて、今までできていたことをもう一度、学習してもらう治療法ともいえます。作業療法士はどの道具をどのように使い、どのように声をかければ、患者さんが特定の動作ができるようになるのかを読み解き、課題を設定します。その課題を患者さんがクリアできれば、さらに繰り返し行うことで、脳内に課題をスムーズにこなすための学習のネットワークがつくられ、強化されていきます。
重要なのは難易度
課題の内容はさまざまですが、重要なのはその難易度です。例えば、高次脳機能障がいの人の注意力を強化したい場合、その人が特別に興味を持つ課題に静かな環境で集中してもらうことは簡単です。しかしそれでは、脳に新たな学習のネットワークはつくられず、注意力を強化することはできません。一方、雑多な環境での訓練は難易度が高すぎて、患者さんは課題のクリアをあきらめてしまいます。ベストなのは、10回中4回成功でき、努力をすれば8回成功するくらいの「中難易度」の訓練です。この難易度に設定すれば、脳は学習する状態になることがわかっています。つまり、作業療法士がいかに中難易度の課題を設定するかが、リハビリの成功を左右するのです。
スポーツにも適用
このような作業療法のメソッドをスポーツに応用する研究も進められています。例えばサッカーの場合、試合中は敵の存在や緊張感などさまざまな負荷が選手にかかります。一定の負荷を超えると、冷静な判断ができず、注意力が散漫になるなど、認知機能にいわば一時的な障がいが現れ、練習でできていたこともできなくなってしまいます。そこで今、特定のプロサッカー選手を対象に、どのようなときにそうした「障がい」が現れやすいのか、脳の働きや認知機能の特性を調べることで、その選手がどんなトレーニングをすればミスをしにくくなるのか、また、周りの選手がどうサポートすれば最大限の力を発揮できるのかがわかると考えられています。
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先生情報 / 大学情報
藍野大学 医療保健学部 作業療法学科 教授 酒井 浩 先生
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