「没頭した状態」をうまく作ることができれば、認知症は改善できる

「没頭した状態」をうまく作ることができれば、認知症は改善できる

アクティビティで認知症を改善

認知症を「病気」と捉えると、薬で治すという考え方になりがちです。確かに薬も開発されていますが、ほとんどが症状の進行を遅らせる効果しかありません。そこで認知症によりもたらされた、幼児のように身の回りのことができなくなった状態を再び「できる」ようにする取り組みが、作業療法のアクティビティになります。例えば、計算ドリルや塗り絵、お手玉、編み物などです。何を選ぶかは対象者の好みにもよりますが、幼少時から親しんでいる人の多い塗り絵は、男女問わず好まれ導入しやすい傾向があります。

ポイントはQOLの向上

アクティビティを選ぶ基準は、対象者のQOL(生活の質)を向上させられるかどうかです。好みに合う、能力にフィットしたレベルの物事に取り組んでいるとき、人間はポジティブな感情が発現しやすくなります。何かに没頭していると、あっという間に時間が経ったと感じるでしょう。心理学ではその状態を「フロー」と言い、感情を落ち着かせる効果があります。認知症患者が暴言や暴力といった行動を取るのはネガティブな感情にとらわれているからで、アクティビティを通して楽しい時間を過ごせば、そういう行動も抑制できます。

作業療法士の「経験」をデータ化

現状、アクティビティの選択は作業療法士の経験に委ねられています。データに基づき客観的に決めることができれば、経験の少ない作業療法士でも適切なアクティビティを選べるはずです。そこに利用できそうなのが、認知機能を評価するMMSE(ミニメンタルステート検査)というスクリーニングテストです。このテストは30点満点で、23点以下は認知症の可能性が高いとされます。このスコアを基にアクティビティの難易度を決めるのです。認知機能のレベルに合ったアクティビティを行うことで、認知機能や日常生活能力を改善することも珍しくなく、寝たきり状態の「要介護5」から、MMSEスコア20点程度まで改善できたケースもあります。

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県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 作業療法学コース 教授 久野 真矢 先生

県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 作業療法学コース 教授 久野 真矢 先生

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メッセージ

医療福祉系に進もうと考えているなら、人と関わる経験を積んでおくことが大事です。ボランティアや住んでいる市町村の活動に参加するなど、意識的にさまざまな年代と触れ合う習慣をつけておきましょう。それから作業療法の場合、日常生活がアクティビティの手段となり、不自由なくできるようになることがひとつの目標です。料理をしたことがなければ、料理をするために必要な体の動かし方はわかりません。普段目にすることを実際に自分でやってみて、うまくするには何が必要なのか、観察するようにしましょう。

先生への質問

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県立広島大学は、教育、研究、地域貢献、国際交流のいずれにおいても公立大学として一級の大学になっています。「主体的に考え、行動し、地域社会で活躍できる実践力のある人材の育成」を目標に、教養教育では、大学4年間の学士課程教育を通じて実施する「全学共通教育科目」を設定するとともに、専門教育においては、教養教育との連携を図りながら、「専門科目」を系統的に設定することにより、バランスのとれた教育内容を提供していきます。