トンネルの安全を支える避難設備
トンネル火災事故の発生
国土に山が多い日本では、各都市をトンネルでつなぐことで移動時間が短縮し、輸送力は飛躍的に向上します。トンネルにより、峠を越えるような交通の難所も解消されますが、一方でトンネル特有の事故の危険がつきまといます。
道路の場合では1979年には東名高速道路の日本坂トンネルで大きな火災事故があり、2016年には山陽自動車道の八本松(はちほんまつ)トンネルの火災事故で死傷者が出ました。トンネル内で車の事故が起きると、燃料だけでなく積荷が燃える可能性もあります。ヨーロッパのモンブラントンネルでは過去に食料運搬トラックから出火し、その積荷に延焼して火災が拡大するなど、大事故につながりました。
安全に避難するために
事故の際に安全に避難するために、トンネルにはさまざまな避難設備が造られています。特に避難通路は、本線トンネルとは別に造られた避難坑や、上り線と下り線のトンネルが並走する場合に反対側のトンネルに退避する避難連絡坑があります。東京湾の海底を通るアクアラインでは、円形に掘ったトンネルの下半分を避難通路として使用することになっています。早い避難が必要であると同時に、煙が上部に溜まる性質を踏まえ、さらに気圧も調整することで、トンネル内でも安全に避難ができるようにしてあるのです。
安全にどれだけ費用をかけるか
避難設備は重装備にすればするほど安全性は高まりますが、一方で工事費はかさみます。発生する確率が必ずしも高いとは言えないものの、ひとたび起きた場合には大事故となることに、どれだけの設備を造るかは非常に難しい問題です。諸外国には高度な避難設備を設けている場合もありますが、国全体のトンネルの数とのバランスや事故の発生率を踏まえて決める必要があります。一方、開発途上国では、限られた予算内でできるだけ多くのトンネルを通したいという要望もあります。
人命を優先する考えのもとで、社会が成熟するにつれてどのように安全を確保すべきかを考えていくことの重要性が増しているのが世界の現状です。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 都市環境学部 都市基盤環境学科 教授 砂金 伸治 先生
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