見えない地中を立体視! 地下の安全を支えるレーダー技術

見えない地中を立体視! 地下の安全を支えるレーダー技術

レーダーで地下を「見る」

地面の下には建物の基礎や水道管などさまざまなものが埋まっていますが、古いものでは記録が失われ、どこに何が埋まっているのかわからない場合も多々あります。そこで、レーダーを使って現状を調べます。電波を放ち、地中にある物体からの反射波を分析することで、地下の様子を調べるのです。電波の通りやすさは地質によって異なりますが、一般的に地上から調べられるのは、地表近くの部分だけです。より深いところを調べるために、地中に開けた細い穴の中で使える「ボアホールレーダー」が開発されています。

細い穴から立体視

従来のボアホールレーダーでは、物体までの距離はわかっても、どの方向にあるのかを正確に特定するのは難しいという課題がありました。この問題を解決するために、穴の中に複数のアンテナを並べる「アレーアンテナ」が開発されました。アンテナ間の電波の到達時間差を測定して、電波がどの方向から戻ってきたかを推定するのです。携帯電話基地局や無線LANのルーターにも使われている仕組みですが、直径が小さい穴で精度を出すのは難しいとされていました。アンテナ間の距離が狭いことから到達時間差が小さいため、通常は問題にならないケーブルとの干渉などの影響が無視できないからです。しかし、実験と工夫とを重ねることで、直径10cm程度の穴でも3次元計測が可能になりました。

暮らしの安全を支える地下探査

地中深く穴を掘るのにはかなりの費用がかかります。1本の細い穴で周囲の立体的な状態を調べられる3次元「ボアホールレーダー」は、実業界で大いに歓迎され、すでに日本全国で高層ビルの基礎杭(こう)の位置確認などに活用されています。そのほかにも幅広い応用があり、中でも重要なのが防災への活用です。鉄道のトンネル掘削時の断層調査にも使用が検討されました。また、ビルの倒壊原因の究明などにも役立つかもしれません。スマートフォンなどで日常的に使われている電波が、地下の安全を支えるために活用されているのです。

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先生情報 / 大学情報

大阪電気通信大学 工学部 電気電子工学科 教授 海老原 聡 先生

大阪電気通信大学工学部 電気電子工学科 教授海老原 聡 先生

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地下電磁波計測工学

メッセージ

コンピュータ上で完結する仕事は、これから徐々にAIに置き換えられていく可能性があります。そんな中で、実際にモノに触れて「ものづくり」をする分野は、置き換えることが難しい貴重な領域です。例えば私たちの研究のように、地中に穴を掘って電波を送り、実験を繰り返す中で新しい発見をしていくような過程は、人間ならではの創造性が生きる領域です。ぜひ、実際にモノを作り、触れる体験を大切にしてほしいです。そこから生まれる発想や創造性こそが、これからの時代のあなたの強みになるはずです。

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本学は工学を中心に建築、情報、医療技術、リハビリ、スポーツ、ゲーム、デザインなどの学科/専攻を設置している「技術系総合大学」です。在籍学生数は大学院を含めて約5,887人(2023年5月1日現在)。高度なモノづくりができる「実践型教育」理念のもと、社会で実際に役立つ技術と知識修得をめざします。「3D造形先端加工センター」などの最先端設備や「資格学習支援センター」によるサポート体制が就職率の良さに繋がっています。また、2つのキャンパスは京都や兵庫近辺からのアクセスの良さも魅力の一つです。