わずかな岩の亀裂が、巨大地震になる地底のメカニズム

わずかな岩の亀裂が、巨大地震になる地底のメカニズム

目に見えない小さな亀裂が始まり

プラスチック製の定規の両端を持って、力を入れて曲げていくとどうなるでしょうか。最初のうちは目に見える変化はありません。しかしそのうちごく小さな亀裂が生じ、亀裂がある程度まで大きくなると一気にバキッと割れてしまいます。これは「脆性(ぜいせい)破壊」と呼ばれる現象で、同じメカニズムが地震のときにも働いています。
地中の断層には、両側から常に巨大な力が加えられています。そこにまずミクロンスケールの亀裂が入り、力が加わり続けることで亀裂が大きくなります。そして、それが限界点を超えると、ひび割れが一気に広がるのです。

東日本大震災で起こった巨大なズレ

2011年に起こった東日本大震災では、日本海溝の近くにある断層がおよそ50メートルもズレました。これほどまでに大きなズレは、なぜ起こったのでしょうか。破壊現象に加え、ほかの原因も重なったからだと考えられます。
原因を解くカギは「摩擦係数」です。ズレて動いている最中に摩擦係数が急激に下がると、断層は滑りやすくなります。摩擦係数が下がる原因は断層のすき間に含まれる水で、断層が滑り始めると、このすき間の水が地震のエネルギー(摩擦発熱)を受けて膨張するのです。膨張して行き場のなくなった水は圧力が上昇し、その水圧でまわりの岩盤を押し上げます。これにより岩盤が動きやすくなるのです。

化学反応でズレが大きくなった可能性も

また、岩盤がズレることで発熱し高温状態になると、常温では考えられないような現象が起こります。特に地下に方解石(CaCO₃:炭酸カルシウム)が多くある場合が問題です。CaCO₃は500℃くらいの高温になると、CO₂とCaO(酸化カルシウム)に分解されますが、この化学反応により放出されたCO₂が、やはり岩盤のすき間を広げる圧力として働き、断層を滑りやすくするのです。
地震は物理的な動きのみで考えられがちですが、物理的な摩擦エネルギーが化学反応を引き起こし、そのために地滑りが加速度的に強まる可能性が指摘されているのです。

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大阪大学 理学部 物理学科 准教授 廣野 哲朗 先生

大阪大学 理学部 物理学科 准教授 廣野 哲朗 先生

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地球科学、物理化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

東日本大震災で私は、地震を研究する科学者として力不足を感じました。しかし、断層の調査や分析、室内での地震の模擬実験などの研究によって、何とか地震への理解を前進させたい、させなくてはいけないと改めて思ったのです。そのためには研究内容を社会に伝え、大学と行政・市民との密な交流、情報伝達が大切だと感じています。
大学ではいろいろな講義・実習がありますが、自分の知的好奇心を満足させるだけではなく、社会の中で果たすべき役割にも目を向けながら、あなたには学んでいってほしいと思います。

先生への質問

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。