市場は必要ない時代なのか? 水産物の流通について考える
水産物の約半数が消費地市場を経由しない時代
四方を海に囲まれた日本は水産資源に恵まれています。東京にある豊洲市場には全国で水揚げされた水産物が集まり、そこから卸売業者の手を経てスーパーなどの店に並び消費者のもとに届きます。かつて日本国内の水産物の多くは、全国各地の消費地市場を経由して流通しており、1980年代の消費地市場経由率は70%を超えていましたが、近年は50%ほどになっています。
豊洲市場がなかったら東京の食はどうなる?
市場経由率が下がった理由のひとつは、規格性の高い水産物の増加です。養殖された水産物はサイズや種類がほぼ一定で価格の相場も決まっています。海外からの冷凍された輸入品も同様で、市場を通す必要性が低いのです。では市場を通す必要が高い水産物は、といえば、それは天然の生鮮水産物です。いつどこで、どんな魚がどれだけの量獲れるのかは誰にもわかりません。もちろん、ある程度の予測はつきますが、正確な予想は困難ですし、意外な場所で貴重な魚が水揚げされることもあります。そういった不規則な水産物の供給と移ろいやすい需要の素早い調整に卸売市場が一役買っています。もし、豊洲市場の機能が止まってしまったら、東京の食品流通は麻痺してしまうとも言われています。「市場経由率の低下=市場の価値がない」ではないのです。
新たなブランド水産物を生み出す取り組みも
市場内の仲卸業者は、市場に集まる水産物の品質や鮮度を見極めて、適切な価格をつける「目利き」の役割を担っています。しかし現在は、そういった目利きの必要ない規格化された商品の売買も多くなっています。そこで市場に集まる生産者、流通業者、小売りや外食産業従事者などが連携して、独自のブランド水産物を生み出す取り組みも始まっています。価格競争だけに目を向けると、利益は下がる一方となってしまいますが、価格競争に陥らない価値のあるブランド水産物を作り上げることなどにより、産地と消費者をつなぎ、新たな価値を生み出す場所として市場の存在意義は増していくでしょう。
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東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋政策文化学科 教授 中原 尚知 先生
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