「肉フェス」の食中毒はなぜ起きた?
屋外イベントの食中毒事件
屋外で肉料理を楽しむイベント「肉フェス」で、かつて600人以上の患者を出す集団食中毒が発生しました。原因は、鶏の腸内の細菌・カンピロバクターでした。感染すると下痢や嘔吐(おうと)のほかに、ギラン・バレー症候群のような神経疾患を引き起こしたり、体力や免疫力の落ちている人は合併症を発症し、重篤になったりするケースもあります。しっかりと火を通して調理すれば菌は死滅しますが、なんらかの理由で菌が生きていて感染したのです。
なぜカンピロバクターは生き延びたのか?
感染経路として考えられるのは、鶏肉をさばくときに、人間の手や調理器具を媒介にして、腸内にいる細菌が胸肉やもも肉などに付着してしまうことです。特に鶏は個体が小さいため、牛や豚よりもさばきにくく、感染しやすいと考えられています。カンピロバクターは、通常は酸素濃度5%の腸内にいて、酸素濃度20%の大気にふれると生きられないはずですが、生き続けたのはなぜでしょうか? その理由として、菌が一旦仮死状態になった後、人間の腸内で復活するのではないか、あるいはほかの菌に延命させてもらうのではないかなどの説があります。
また、土壌にいるウエルシュ菌のように、100度で60分加熱しても死滅しないものもいます。それが根菜に付着すると長時間煮込んでも食中毒を免れられません。
悪いことだけじゃない微生物の役割
食中毒を避けるには、よく焼くことが基本ですが、その調理法だけでは、生魚の刺身を食べる日本の文化や食の多様性が損なわれてしまいます。人間や調理器具を通じて細菌を広めないように配慮すること、さらに農場から小売店に並ぶまでの流通経路で病原菌をくい止めることが大切です。
一方、細菌を含む微生物は、人間にとって悪いだけのものではありません。味噌・酒・漬物などの発酵食品をつくりだすなど役立つ面もあります。人間や鶏の腸内には1000種類以上の微生物がいるといわれ、その解明はこれからなのです。
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椙山女学園大学 生活科学部 管理栄養学科 准教授 門屋 亨介 先生
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