講義No.10139 生物学

求愛のエラーがもたらすテントウムシたちの“格差”社会

求愛のエラーがもたらすテントウムシたちの“格差”社会

生き物たちもエラーをする

自然界では生き物の周りに他の種類の生き物たちがたくさんいて、食う食われるの関係やエサを取り合う関係、お互い得する関係などでつながり合っています。こうした「相互作用」の役割を明らかにするのが生態学という学問の目標です。相互作用の中でも「求愛のエラー」は、ある種類のオスが別の種類のメスと交尾しようとする行動を指します。こうした行動にどのような意味があるのか、ほとんど分かっていません(教科書や参考書にも載っていないはずです)。

よく似たテントウムシでの求愛のエラー

ナミテントウはさまざまなアブラムシを食べる身近な昆虫です。一方、見た目のそっくりなクリサキテントウは松の木にしか生息しておらず、珍しい昆虫です。両種はよく似ているため、求愛のエラーが起きてしまいます。特にクリサキテントウは、ナミテントウが周りにいると、自分の種類どうしで交尾できず正常に子孫を残せません。そのため、これらの2種は同じ環境でうまく暮らせそうにありません。つまり、求愛のエラーはエサをめぐる競争と同じように、お互いの種類を別々の生息環境(ニッチ)に追いやる役割があると考えられます。

すみわけの鍵を握る相互作用

松の木に生息するクリサキテントウは、捕まえにくいアブラムシだけを食べて暮らしています。本当はナミテントウのように、栄養のあるアブラムシを食べて成長したいはずです。しかし、ナミテントウに出会うと求愛のエラーが起こってしまうために、クリサキテントウはあえて松の木に特化していると考えられます。つまり、求愛のエラーが両種の「すみわけ」の原因になっている可能性があります。
このように、生態学では野外での観察や室内での実験を通して、自然界のさまざまな相互作用の役割を明らかにし、身の回りの生き物たちについての理解を進めていきます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

高知大学 農林海洋科学部 農林資源環境科学科 准教授 鈴木 紀之 先生

高知大学 農林海洋科学部 農林資源環境科学科 准教授 鈴木 紀之 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

昆虫生態学、進化生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

子どもの頃から昆虫が大好きで、今も大学でチョウチョやテントウムシの研究をしています。あなたにも、好きなことがきっとあるはずです。興味のあることに熱中して、突き進んでください。その先に、これからの進路や大学選びが待っています。
本当に好きで熱中できることは5個や10個もなくて、せいぜい1個や2個に限られるでしょう。それをぜひ大切にして、好きなことが、あなたの人生の「大きな一部」になるように頑張ってください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

高知大学に関心を持ったあなたは

高知大学は、四国山地から南海トラフに至るまでの地球環境を眼下に収め「地域から世界へ、世界から地域へ」を標語に、現場主義の精神に立脚し、地域との協働を基盤とした、人と環境が調和のとれた安全・安心で持続可能な社会の構築を志向する総合大学として教育研究活動を展開しています。
教養教育、専門教育、正課外教育やインターンシップを通じ「表現力」「プレゼンテーション能力」「コミュニケーション能力」「異文化理解能力」「情報活用能力」の5つの能力で社会の力になる21世紀の知識創造社会で活躍できる人材を輩出します。