生物分類の基本単位である、種(しゅ)とは?
「種」とは隔離されているもの
現在、地球上には学名のついた種が約140万、学名のついていない種を含めると、その10倍もの生物種がいると見られています。種というのは、生物を分類する基本単位ですが、その定義は意外と難しいものです。一般的には、「種とは生殖的に隔離されているもの」と考えられています。同じ種による交配でないと、子孫を残すことができないということです。
自然界で起こりうる交雑の不思議
ただし、このような原則にも例外があり、自然界で別の種との交雑が起こることがあります。マツ科の植物に、高山帯に生育する低木のハイマツと、山地帯に生育する高木のキタゴヨウという種があります。この2種は、標高によっては混生し、交雑を通じた遺伝子の交換が起きていることがわかっています。
通常、生物の細胞内にあるミトコンドリアなどの細胞小器官は母方のみからDNAを受け継ぐ母性遺伝という性質を持っています。しかしハイマツとキタゴヨウは、ミトコンドリアは母性遺伝で、葉緑体は父性遺伝という特殊な遺伝様式を持つため、ミトコンドリアと葉緑体のDNAを調べることで、交雑の詳細を明らかにすることができます。調査していくと、この2種が交雑した個体では、ミトコンドリアDNAがハイマツ、葉緑体DNAがキタゴヨウ、という組み合わせはありますが、その逆は出現しないことがわかりました。その理由はまだはっきり解明できていません。
ヒトも交雑している
こうした種の間の遺伝子の交換は、実はさまざまな種で起こっており、一般的な生命現象であると考えられます。絶滅種であるネアンデルタール人は、ヒトとは別の種であることが判明していますが、過去にヒトと共存する時代がありました。近年の研究では、ネアンデルタール人とヒトの交雑もあったことがわかってきました。
こうした遺伝子の交換が行われながら、なぜ「種」は維持されるのか、という疑問にも、まだ答えは出ていません。交雑という現象の謎を探っていくことは、生物の進化を解明する糸口にもつながっています。
参考資料
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千葉大学 理学部 生物学科 教授 綿野 泰行 先生
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