講義No.13660 医学 生物学

小さな赤ちゃんが失明するのを防ぎたい

小さな赤ちゃんが失明するのを防ぎたい

子どもの主な失明原因となる未熟児網膜症

現代は医学が発達し、予定日よりも数カ月早く産まれた未熟児の命も助けられるようになりました。ただ、未熟児はその名のとおり体のいろいろな部分が未成熟で、それが病気につながることもあります。
その一例として挙げられるのが、「未熟児網膜症」です。網膜は、眼の奥にある部分で黒目から入った光を感じる役割を果たしています。この網膜に栄養を行き渡らせる血管が早産児ではできあがっていません。そのため、生まれた後に完成するように血管を伸ばさないといけませんが、何らかの理由で血管が本来の育つ向きと違って網膜を離れて成長してしまうことがあります。この血管の異常な成長があると眼のなかに血がでたり、網膜剥離になって失明することがあります。もし血管の伸びる方向をコントロールして正常な血管に育てることができれば、病気が治る可能性が見えてきます。

治療の後に視力がよくなるとは限らない

しかし今のところ、この異常な血管をコントロールする方法は見つかっていません。「この方向には行くな」と命令する分子、「この方向に進め」と促す分子が見つかってきていますが、これらは血管の外から指示する要素です。一方で、血管側の「そっちに行くよ」を決める要素もあります。自在に血管を伸ばすには、これらをどう使うかが課題です。最近、異常な血管を抑える薬物が開発され、未熟児網膜症の赤ちゃんの眼に注射で薬を入れる治療がされています。この治療は正常な血管を育てるものではなくベストな治療とは言えません。治療して失明を防ぐことはできても、良い視力を得られるとは限らないのです。

進歩する眼の血管に関する研究

とはいえ、眼の血管に関する研究は徐々に進んでおり、異常血管の伸びる向きを制御する方法も確立されようとしています。将来的に新薬が生まれて、正常な血管をつくることができれば、後遺症のない治療になるでしょう。未熟児網膜症に効く薬は、そのほかの大人の眼の血管におきる病気の治療にも効果を発揮するでしょう。

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先生情報 / 大学情報

大阪大学 医学部 医学科 特任准教授 福嶋 葉子 先生

大阪大学 医学部 医学科 特任准教授 福嶋 葉子 先生

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眼科学、網膜血管生物学

メッセージ

私の研究テーマは、目の網膜血管の病気です。現在は眼科医として患者さんの困りごとを直接聞いて、自分の手で治療を行いつつ、研究で病気を治していく可能性を探っているところです。研究に没頭するときも常に患者さんのことが頭にあり、どう治療していくか、現在の治療で不足している部分を自分で補完するにはどうしたらいいのか考え続けています。その先にはまったく新しい治療法を生み出すチャンスがあること、研究の成果を直接患者さんに届けられる立場にあることが、私にとって励みになっています。

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。