酵素は数学を理解している? 分子生物学をトポロジー観点で研究

「結び目・絡み目」って?
幾何学の中に、図形の性質を研究する「トポロジー」があります。「連続的に変形させて」、つまり、切ったりつなげたりはせずに形や大きさを変えて同じ形にできる図形同士を、「同じ(同相)」とみなす考え方です。
その研究対象の一つに、「結び目・絡み目」理論があります。1本のひもの両端をくっつけてできる輪のことを「結び目」、2本以上の輪を絡ませたものを「絡み目」と呼びます。あやとりでつくった複雑な形も、切ったりつないだりせずに輪ゴムのような円にすることができるため、どんなに違って見えても「輪ゴムと同じ」とみなすのがトポロジーです。
DNAの複製過程を考える
トポロジーでは、結び目・絡み目にどんな種類があるか、どこにどのような変形を加えたら別の形になるか、そこに法則性や固有の特徴があるか、などが研究されています。これが、分子生物学の研究にも応用できるのです。
例えば、大腸菌のDNAは、二重螺旋の1本の「ひも」が輪になった環状DNAで、一種の「結び目」です。細胞分裂で環状DNAが複製される過程で、1本になっていた「ひも」が2本に裂けていくと、二重螺旋や超螺旋の構造から「絡み目」が現れます。そこで、結び目・絡み目の理論でDNA複製プロセスの研究が行われました。
酵素はトポロジーを理解している?
DNAに働く酵素の中にはDNAの一部を自ら組み変え、DNAのトポロジーを変えるものがあります。
DNAの複製が起こるとき、トポイソメラーゼと呼ばれる酵素や部位特異的組み換え酵素がDNAのトポロジーを変え、効率的に絡み合いを解いていることがわかっています。このような酵素の働きは「交差交換」や「バンド手術」と呼ばれる結び目・絡み目の変形方法と同じです。環状DNAの複製に関して、結び目・絡み目の理論を用いると、DNAの絡み合いが酵素によっていかに効率的に解かれているかを数学的に調べることができます。まるで、酵素が数学を理解しているかのような現象が起こっているのです。
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