困難な出来事を乗り越えるのに大切なのは、自分への思いやり

困難な出来事を乗り越えるのに大切なのは、自分への思いやり

共通ルールではなく一人ひとりと向き合う

学問や研究では、入力値が同じなら結果も同じものが正解とされます。ところが心には、大勢に共通する部分と、一人ひとり違う部分があります。臨床心理学は、個々の心の動きを大事にする心理学の一分野です。自分のことは自分が一番よくわかっていると思うかもしれませんが、実は自分の気持ちが自分に隠されていることは少なくありません。心の鎧を脱いで自身と対話することができて初めて、本当の自分の気持ちを知ることができます。臨床心理士は、困難を抱えた人へのカウンセリングやその周囲の人へのアドバイスという形を通して、その人が自分の身の上に起こった出来事を受け止め、乗り越え、再び社会で生きていくための心のケアに携わります。

自分への思いやりが、現実の受け入れを可能に

脳卒中や事故などで障がいを負えば、リハビリをして身体機能の回復をめざしますが、同時に、心のケアも必要です。初期段階では意欲的にリハビリに取り組んでいる人も「元通りには治らない」という現実の前に、繰り返し落ち込みます。「どうして自分だけが」「自分は障がい者になってしまった」というのは、当事者からよく聞かれる言葉で、そのような思いは、気持ちを蝕み、時に人を抑うつ的にさせます。そこから立ち上がるためには、まず自分の感じている悲しみや怒りなどを、あるがままに受け止めることです。そして、自分に起こった出来事は、自分だけに起こった不幸ではなく、誰もが経験しうる困難の一つだと体感することが大切です。そのためには、なにが必要でしょうか? それは、自分自身に対して思いやりを持つことです。

セルフ・コンパッションとは

近年、セルフ・コンパッションと呼ばれる自分自身に対する思いやりが、困難における悩みや不安を和らげ、落ち着きや安心を感じることを可能にさせるとの研究がなされています。事故や病気などだけではなく、「自分は人より劣っている」など、劣等感や自己批判で苦しんでいる場合にも、セルフ・コンパッションは役に立つとされています。

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先生情報 / 大学情報

神戸学院大学 心理学部 心理学科 講師 定政 由里子 先生

神戸学院大学 心理学部 心理学科 講師 定政 由里子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

心理学、臨床心理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

自分のことは、わかっているようで本当はよくわかりません。自分のことを知りたい人にとって、臨床心理学は興味深い学問です。例えば自分のせいで部活の試合に負けたと落ち込んだとしても、実は100%自分が悪いなんてことはありえません。自分の失敗は大きくとらえてしまいがちですが、出来事を過大・過小評価せず、客観的に見ることで気持ちが落ち着いて、楽になり、再び立ち上がる勇気も湧いてくるかもしれません。客観的に自分を見ることは難しいですが、自分との対話を大切にすれば可能です。あなたもその方法を学んでみませんか?

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