犯罪心理学の視点から依存の問題を考える
受刑者には問題のある飲酒をしている人が多い
受刑者は一般的な成人男性に比べ、多量飲酒者が顕著に多いことが分かっています。アルコール依存症と診断される程の深刻な飲み方をしている人も少なくありません。お酒をずっと飲み続けるので、飲酒運転が常習化していたり、仕事に行かなくなり、やがて生活に困って金品を盗んだり、酔っ払った状態で暴力をふるったりする悪循環に陥ってしまうのです。ところが本人には問題飲酒の自覚がありません。「酒が強いだけ」、「コントロール出来る」と思い込んでいます。そのような人達に「お酒をやめましょう」と呼びかけても反発するだけです。
自分を客観的に見つめるグループワーク
刑務所内では改善指導と呼ばれるグループワークが実施されています。アルコールの問題がある受刑者たちを集めて、お酒にまつわる考えや体験を順番に話してもらいます。すると、他人の考えや体験が自分と似ていて、「自分もアルコール依存症ではないか」と考え始めるようになります。依存症という病気を知り、どういう時に飲みたくなるのか、または抑えられるのかなどを話し合います。また、出所後の生活を想像して、お酒と付き合い方等を考えます。
再犯防止のために
なぜ受刑者に手厚い働き掛けをするのかと疑問に思う人もいると思います。刑務所の心理職員にとってのクライエントは、第一義的には目の前にいる受刑者ですが、彼らが犯した犯罪の向こう側にいる被害者の方やご家族の存在を決して忘れてはいけません。刑務所の心理職は、ダブルクライエント構造と呼ばれる一般的な心理職とは少し違う立ち位置で働いています。再犯を繰り返さない、そして再び誰かを傷つけないために受刑者の足りない部分に働きかけます。特に依存症に関しては、病気としての側面に対しても働きかける必要があります。自らの問題に向き合えないと被害者の方や周囲の人とも向き合えません。難しいケースもたくさんありますが、受刑者が一人では解決できない問題に向き合えるように働きかけることが再犯防止には必要です。
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