自然の恵みを数値化する、定量生態学が描く未来

「数字」で見える生態系の価値
「生き物が減ると環境に悪い」という認識は広く共有されていますが、それだけでは人間の暮らしとの両立が難しいという課題があります。定量生態学は「風が吹けば桶屋がもうかる」という定性的な予測から一歩進んで、例えば「風速5mなら桶屋の売上は5万円増加する」といった具体的な数値で予測できるのです。例えば、ある地域の生物種が10%減った場合、その地域の生態系サービスは5%減少するが、隣接地域では10%減少するといった予測を可能にしてくれます。生態系サービスとは、その生態系から人間が受ける恩恵のことです。
地域ごとの生物多様性は地域の恵み
生物多様性は「地域固有の価値」を持ちます。例えば地球温暖化問題で、原因となる温室効果ガスは地球全体を循環するため、日本で排出した分でも他国で吸収すれば全体のバランスが取れます。しかし生物多様性は地域ごとに特有であり、例えばマレーシアで失われた生物多様性を日本で回復させても相殺できません。地域の生態系は、その地域の人々に恵みをもたらしており、地域ごとに保全する必要があるのです。そして、地域で行った保全活動の成果は、その地域に直接還元されます。
水をくむだけで生き物がわかる
定量生態学の実用的な研究例として、水中のDNAから生態系を評価する技術があります。例えば複数の河川を治水工事する必要がある場合、各河川の水をペットボトル1本分くんで分析すれば、そこに生息する生物を特定できます。そのデータを使ってコンピュータシミュレーションすることで、工事が各河川の生態系に与える影響を数値で予測できます。「この川を改修すると生物多様性が10%減少する」といった具体的なデータをもとに、環境への影響が最も少ない場所や方法を選ぶことが可能になります。都市開発や企業活動において、「ネイチャーポジティブ」という生物多様性を回復させる取り組みを推進する上で、この技術がますます重要になっていくでしょう。
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龍谷大学先端理工学部 環境生態工学課程 教授三木 健 先生
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