山の吸血動物ニホンヤマビルの謎を解き明かす
山歩きで謎の流血! その正体は?
山を歩いていると、気づかないうちに肌から流血していることがあります。痛みもかゆみもない場合は、ニホンヤマビル(以下、ヤマビル)に血を吸われたのかもしれません。ヤマビルは本州、四国、九州の山や森林に生息する陸生のヒルです。体長2~5センチほどのミミズと同じ環形動物です。シャクトリムシのように動き、動物の呼吸や体温を感知して接近します。吸血する時に血液の凝固を抑える物質を出すので、去った後も流血が続くのです。最近、ヤマビルが山や人里で多く見られるようになり、人が吸血される被害が増えました。なぜ、ヤマビルは山や人里に増えたのでしょうか?
残った血液のDNA解析で宿主動物を調べる
ヤマビルの生態を知ろうと、全国の山でヤマビルを捕まえ、ヤマビルの体内に残った血液のDNAを調査しました。その血液の持ち主の動物をDNAのデータベースと照合して調べたところ、ニホンジカが4割、イノシシやタヌキなどが3割、カエルなど両生類が3割でした。全国的にはニホンジカが多く、シカの少ない東北ではカエルが多かったのです。近年、農山村の過疎化・森林活動の低下・狩猟者の減少などにより、ニホンジカが増加しています。ヤマビルは、シカの増加によって吸血の対象動物、つまり宿主をカエルからシカに変化させ、おそらく栄養価の高いシカの血液を得たことで増加したと考えられるのです。
まだまだわかっていない山や自然の動植物
現在、ヤマビルは感染症を媒介するとは考えられていませんが、将来は媒介しないとも限りません。もし、ヤマビルを介した感染症が発生した時、ヤマビルの分布と宿主動物であるニホンジカの増減を管理すれば、感染症を防ぐ対策を講じることができるでしょう。しかし、ヤマビルなど山の動植物についてはまだわかっていないことがたくさんあります。ヤマビルと同じ陸生ヒルのある種は、海鳥の眼球に寄生し、1,000キロ以上を移動した例もあります。自然の中には、未知のことがたくさん眠っているのです。
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宇都宮大学 農学部 森林科学科 教授 逢沢 峰昭 先生
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