国境を超えて歴史認識を共有することは可能だろうか
歴史認識問題をいかに解決するか
日本と中国や韓国との間には歴史認識問題が存在します。過去の事実に対する評価が各国で異なり、それが国家間の対立の原因となっています。国は自分たちに都合がいいように事実を歪曲しがちです。例えば、日中間で起こった南京虐殺事件の評価は日本と中国では大きく違います。また、中国や韓国は日本の歴史教科書の記述に敏感です。これらの問題を解決するためには、歴史認識共有の可能性を考える必要があります。
欧米から始まった「公共史」とは
欧米では、この問題に対して「公共史」という先進的な試みを行ってきました。これは、研究者など歴史の専門家が一般の人に対して歴史研究の成果をいかに伝えるかを考える学問です。例えば、フランスとドイツは19世紀以来戦争を繰り返していましたが、第二次世界大戦後に和解の努力を行い、2006年に共通の歴史教科書を刊行しました。教育の段階から、お互いの誤解を回避して建設的な議論が行われる環境を作っています。また、ヨーロッパ各地には複数の国が協力した歴史博物館が設立されています。一般の人が、自国中心の歴史の見方から自由になって、多角的に歴史的事実に触れられるようになっています。さらに、評価の高い映画やドキュメンタリー、小説などの一般向け書物を紹介するイベントなどが行われています。
国ごとの歴史認識の隔たりを埋める
歴史教育は19世紀から始まりましたが、一方で政治は愛国心を高揚させるために歴史教育を利用するようになりました。このことが、国家間の対立を生み出しているのも事実です。そのために、国ごとの歴史認識の隔たりを少しでも埋めることが必要なのです。ただ私たちは、国家間の対立をあおるようなメディアに引きずられがちです。また、自国の優位を強調する内容の方が映画でも書物でも心地よく感じられます。しかし、そこにとどまっていては、歴史認識問題は解決しません。公共史の試みを、日本と中国や韓国のような東アジアの歴史問題解決のためにも、進めていく必要があるのです。
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静岡県立大学 国際関係学部 国際言語文化学科 教授 剣持 久木 先生
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