アメリカの海洋構想~どのように太平洋を把握し活用していったか~

アメリカの海洋構想~どのように太平洋を把握し活用していったか~

独立後のアメリカと太平洋

アメリカが太平洋に本格的に乗り出したきっかけは、1776年における独立でした。英国の支配から脱したアメリカの商人は、ラッコの毛皮や雑貨、香木、肥料になるリン鉱石などを船に積み、中国に渡りました。やがて18世紀末になると、遠洋捕鯨が盛んになります。これらの貿易や捕鯨で太平洋に進出していった船の乗組員は、太平洋の情報をアメリカに持ち帰りました。断片的ではありますが、アメリカはそれらを蓄積していったのです。

海軍の探検調査とモーリの業績

19世紀に入ると、これらの断片的な情報が体系的に整理されるようになります。それには海軍による科学調査も大きな役割を果たしました。その集大成がマシュー・モーリという海軍観測水路測量局長が行った仕事です。彼は、船員たちが送ってよこす断片的な情報と古今東西の航海記の記述をすり合わせました。そして、世界の海がどういう状況にあるのかを初めて体系的に整理したのです。これに基づきアメリカの海洋構想ができあがっていきました。例えば、日本に開国をせまったペリーも、海を「陸と陸とをつなぐ通路」としてとらえ、社会的、科学的距離をよく把握した上で活用すべきであると考え、蒸気船艦隊の導入を提案しました。19世紀後半にアメリカが太平洋の島々を領有した背景にも同じ海洋構想がありました。今でも太平洋の島々をいくつか領有するアメリカは、大陸国家であると同時に、太平洋国家でもあるのです。

今に引き継がれるアメリカの海洋構想

アメリカの海洋構想において、海は、海洋資源を独占するために占有する場所ではなく、誰もが自由に行き来できる共有地のように考えられています。その考え方は今でも変わらず、中国が資源を目的に南沙諸島を押さえようとするのに対し、船舶の自由な航行を妨げる占有は許さないという態度をアメリカは守っています。アメリカの太平洋進出の歴史を知ることは、太平洋をめぐるアメリカと諸外国との付き合い方を理解するのに、大いに役立つのです。

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先生情報 / 大学情報

東京大学 大学院総合文化研究科 アメリカ太平洋地域研究センター 教授 遠藤 泰生 先生

東京大学 大学院総合文化研究科 アメリカ太平洋地域研究センター 教授 遠藤 泰生 先生

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歴史学、比較文化学

メッセージ

今の大学生は恵まれていて幸せすぎるのか、関心事の範囲がとても狭いように思えます。また、世界のとらえ方も幼いようです。しかし、その「繭」のような小さな世界は、社会に出るといずれつき破られるものです。ですから、高校生のあなたには、ぜひ早いうちから外の世界に興味を持ってもらいたいです。自分の知らない世界が外に展開していて、そこに大きな問題があるかもしれないということに気づくには、自分が生きたことのない外の世界に身をさらす勇気を持つこと、そして想像力を働かせることが必要です。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京大学に関心を持ったあなたは

東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。