アメリカ社会と教育制度における自治と格差の「矛盾」

アメリカ社会と教育制度における自治と格差の「矛盾」

50の州それぞれが政府をもつ

「アメリカ合衆国」は、50の州から構成される連邦制国家であり、州は強い独立性をもっています。首都ワシントンは連邦政府と言って、軍事・外交を担当し、州はそれらを除く内政すべてを担当します。アメリカは州ごとに異なる憲法をもち、それに基づく法律や規定も州が制定しています。そして州は、さらに下部組織である地方自治体に権限と財源を委譲し、草の根の地方自治が体現されています。アメリカ経済社会や政策を考えるには、アメリカ独特の国の仕組み、多種多様な地方自治のあり方の理解が不可欠なのです。

「学校区」とは?

アメリカの公教育制度(小中学校および高校)は、草の根の地方自治のもとで運営されています。教育財源の大部分は、州の下部組織である地方自治体の一つ、「学校区」(school district)毎に徴収された地方財産税です。富裕層が住む不動産価値の高い家屋の集中する学校区は潤沢な教育財源を確保できますが、大量の貧困層が住む学校区では不動産価値が低いため十分な財源を確保できません。公教育にかかる主な支出は、教員の給与と校舎設備にかかる費用ですが、財源が豊かであれば、高い教員給与を払えるため優秀な教員を雇うことができ、少人数教育も可能です。

根付かない「平準化」

貧困や格差を是正するためには、教育は欠かせません。しかし、現在のアメリカ公教育制度は格差を広げていると考えられます。地方財政の財源格差を国が平準化する財政調整制度はなく、たとえ格差が出たとしても地方自治を守りたいという考え方が勝るのがアメリカ社会なのです。1965年以来、連邦政府が貧困児童に対する教育補助金を交付していますが、微々たる額です。トランプ氏が大統領のときは、教育は本来州の担当だと主張し、教育補助金を削減しています。地方自治の力の強さが引き起こした教育格差は、アメリカ社会最大の問題となっているのです。

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専修大学 経済学部 国際経済学科 教授 塙 武郎 先生

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国際経済学、アメリカ経済論

先生が目指すSDGs

メッセージ

「経済学」を学ぶ、それも諸外国の経済や政策を学ぶうえで、最も重要となるスキルは<語学力>と<行動力>です。これらのスキルは「大卒」という学歴では証明不可能であり、まさに学ぶ側の「個人技」の世界です。今や、学生自らアメリカ現地に入り一般市民や諸団体にヒアリング調査をしたり、一次資料を分析する時代です。例えば貧困問題は、その原因、結果、そして政府による対応策は多種多様であり、現地調査を必須とします。大学では専門知識は勿論、語学力と行動力も習得し、グローバルな経済問題に「体」で向き合ってください。

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