金融工学の基礎に確率論あり
金融派生商品の価値を計算する
金融派生商品(デリバティブ)は金融の原資産ではなく、それについての約定を証券化した商品です。これも商品なので、その経済的価値を評価することが重要ですが、それを技術的に行うのが金融工学であり、その中でもっとも著名な成果が「ブラック・ショールズ公式」と呼ばれるものです。これは1970年代にアメリカのフィッシャー・ブラック氏とマイロン・ショールズ氏という経済学者がオプション商品を題材に完成させた公式で、1997年にはショールズ氏がこの功績でノーベル経済学賞を受賞しています。これをベースに現在はさまざまな金融派生商品の価値を算出する研究がなされていますが、商品が複雑になるにつれ、その価値やリスクの評価が難しくなり、それがサブプライムローンの失敗にもつながったとも言われています。
理系出身の人たちもファイナンス商品を開発
ブラック・ショールズの理論の背景に、確率微分方程式を中心とした確率の理論があります。その理由は、株などの金融資産の運用には不確実性とリスクがあり、それが金融派生商品にも反映されるからです。この体系を開発したのは実は、伊藤清氏という日本人の数学者です。2006年に、数学の応用における最高の賞であるガウス賞の第1回受賞者となりました。しかし、伊藤先生が確率微分方程式の理論を発表したのは1942年です。その後、数学はもとより、工学や物理学、生物学など多様な分野で「不確実性をもつ現象」を数式で表現する手段として、伊藤先生の理論は非常に有用であることがわかり、同様のことが金融分野でも認識されていきました。それがブラック氏とショールズ氏の理論、そしてノーベル賞を獲得する公式につながり、現在では、確率論やその応用分野を専門とする理系出身の人たちも当然のように金融商品の開発に携わるようになったのです。このように、現代の金融業界に大きな影響を与えている金融工学の陰に、ひとりの偉大な日本人数学者が築いた確率論の業績があるのです。
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