天文学の技術を応用して生命の深部を生きたまま観察する
生体内を観察する「バイオイメージング」
顕微鏡などを用いて生物の体を観察し、その構造や機能を明らかにする「バイオイメージング」という技術が進歩を続けています。生物の組織を切り取って調べる、あるいは培養した細胞を調べるイメージングは長年続けられてきました。近年では、生物の細胞や組織を生きたまま、3次元的に、時間を追って調べることで、生体内部における構造や分子のダイナミクスをとらえる技術が開発されています。
2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩博士は、クラゲの体内から蛍光タンパク質を発見しました。蛍光タンパク質によって生体内の構造や分子を蛍光で標識することが簡単になり、細胞や組織内部の生命現象が飛躍的に観察しやすくなりました。
すばる望遠鏡に使用される補償光学
観察の際に問題になるのは、生体の奥のほうになればなるほど、外から観察するのが難しいという点です。細胞は大なり小なり濁っていますから、奥を見ようとすると画像がぼやけてきます。
そこで使われるのが、天体望遠鏡の技術です。ハワイにある国立天文台の「すばる望遠鏡」は、100億光年以上離れた天体の姿をとらえることができますが、それには、地球の大気のゆらぎによる光の乱れを補正する技術が使われています。この「補償光学」と呼ばれる技術を応用することで、生体の奥の細胞を観察することが可能になるのです。
植物の幹細胞の仕組みを解明する
生体の奥を見ることにより、これまでわからなかったさまざまな謎の解明が期待されています。例えば、植物の細胞は、動物の細胞に比べて、幹細胞化による再生の能力に優れています。幹細胞とは、幹細胞自身を複製する能力と、別の(時としてさまざまな)細胞を生み出す能力の両方を持った細胞で、例えばiPS細胞が有名です。植物は主に傷つくことで、幹細胞化が引き起こされます。このメカニズムを解明することができれば、植物工場に利用するなど、農業の発展に寄与することはもちろん、将来的には、動物の幹細胞を作り出す技術に応用できるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
宇都宮大学 工学部 基盤工学科 応用化学コース 准教授 玉田 洋介 先生
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