世界を驚かせた「鉄系超伝導体」の発見
超伝導の常識をひっくり返した「鉄系超伝導体」
温度を下げると物体の電気抵抗がゼロになり、その物体の中に磁力線が入らなくなります。それが超伝導で現象としては非常にシンプルです。超伝導は現象そのものが興味深いだけでなく、リニアや送電など多くの応用の可能性があるので、活発な研究がなされてきました。最初に見つかったのは水銀で、その後さまざまな物質での超伝導体が報告されました。長い間、永久磁石になる性質をもつ金属は超伝導体にはなりえないと考えられていました。ところがその常識をひっくり返すことになったのが、2008年、鉄系酸化物が-247℃という超伝導の中では「高温」で超伝導体になることが日本から発表されたときです。この発見は世界に衝撃をもって受け止められました。
磁石が超伝導にならないというかつての「常識」
電子はそれぞれが自転(スピン)していて、磁力をもっています。スピンには上向きと下向きのものがあり、電子はマイナスの電荷をもち、通常は反発しあって単独で存在しています。超伝導体ではスピンが上向きのものと下向きのものが瞬間的にペアを組み、次の瞬間には別の電子との間でペアをつくります。一方、スピンの向きが、きれいに揃っていて時間的にも変わらないのが磁石です。ですから磁石の代表である鉄は超伝導の発現には極めて有害と考えられていました。
物質に隠された役に立つ性質や機能を引き出す
鉄系超伝導体の発見は、鉄系化合物の構造と電子的な特性に注目したことから生まれました。私たちが住む世界は多様な物質で溢れていますが、それらはたった100程度の元素からできています。これは不思議で面白いことです。元素の組み合わせや構造で、物質はさまざまな性質や機能をもちます。鉄のようにありふれた物質にもまだまだ知られていない社会に役立つ性質や機能がたくさんあるはずで、それを発見し、つくり出すのが材料の研究の醍醐味です。
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先生情報 / 大学情報
東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学) 応用セラミックス研究所/元素戦略研究センター 教授 細野 秀雄 先生
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