「あっちむいてホイ」はなぜできる?
運動の随意的なコントロール
ヒトは外から何らかの刺激を受けると、その方向に目や体を向けます。例えば、いきなりボールが飛んで来たら、反射的にそちらを向くでしょう? これは、定位反応という私たちが生まれながらに持っている行動で、意思とは関係がありません。定位反応は脳幹の中枢によって司られていて、蛙など両生類にも見られます。ところがヒトのように脳が発達すると、周りの状況に応じてこの行動をコントロールできるようになります。例えば、恋人同士でいるときに魅力的な異性が急に現れても、わざとそちらを見ないようにしたことはありませんか? このような状況に応じた行動選択には、大脳をはじめとした脳の複雑なネットワークが関わっています。
行動選択に関わる神経活動
パーキンソン病や統合失調症、ADHD(注意欠陥・多動性障がい)の患者さんは、こうした行動の制御がうまくできません。その原因を突き止めようと、脳の研究が進んでいます。行動の切り替えを検査する方法として、「アンチサッカード」がよく知られています。これは、右側に視覚刺激が出たときは反対側の左を見て、左側に視覚刺激が出たときは右を見るといった、「あっちむいてホイ」のような課題で、大脳の前頭葉や脳深部にある大脳基底核といった部分に障がいがあると成功率が低くなります。アンチサッカードをするようにサルを訓練し、脳の神経活動を調べました。すると、行動の制御には大脳や大脳基底核に加え、「視床」という部分が深く関わっていることがわかりました。
脳のメカニズムを知りたい
視床は、嗅覚以外の感覚情報や、大脳基底核、小脳の信号を大脳に伝える大切なネットワークの一部です。ここからは、体の動きに関係した大脳領野だけではなく、物事の知覚や認知、記憶、感情、判断、思考など高次脳機能に不可欠な大脳領野にも情報が送られており、時間を測ったり、特定の場所に注意を向けたりすることにも関与しています。しかしこれらの脳機能の詳しいメカニズムはまだわかっておらず、研究の進展が期待されています。
参考資料
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